製造業の現場では、売上の大きさと利益額が
一致しているとは限らない、という事実がしばしば見過ごされます。

売上規模が大きい製品。
発注量の多い顧客。

数字だけを見ると「会社を支えている存在」に見える取引が、
実際にはほとんど利益を生んでいない、あるいは赤字になっているという
状況は、決して珍しいものではありません。

原材料費や人件費の上昇が続く中、
多くの企業が価格転嫁の必要性を感じています。

しかし、中小企業が一度に対応できる範囲には限界があります。
すべての製品、すべての取引先を同時に見直すことは現実的ではありません。

では、どこから手を付けるべきなのか。
その判断を感覚や売上規模に委ねてしまうと、
「売れているのに儲からない」構造は温存されたままになります。

このとき、有効な視点となるのが限界利益です。
売上ではなく、「どの取引が、どれだけ利益を積み上げているのか」を見直すことで、
価格転嫁に取り組むべき優先順位が、はっきりと浮かび上がってきます。

本記事では、限界利益の基本的な考え方を踏まえながら、
製品別・顧客別に利益構造を捉え直し、
価格転嫁の判断にどうつなげていくのかを実務目線で整理していきます。

売上が大きくても利益が薄い理由

冒頭で触れた通り、製造業においては、
売上と利益が一致していないケースが多々見られます。

小売業や卸売業と異なり、製造原価の計算が複雑であることが
原因の一端であることは間違いないですが、まずはその構造を正しく理解することが重要です。

売上高と利益貢献度は比例しない

売上が大きい製品ほど、会社に貢献している。

多くの経営者がそう感じていますが、実際には必ずしもそうではありません。

売上はあくまで「入ってくるお金」であり、そこから
各種経費を引いた額が利益として「残るお金」です。

材料費や外注費の比率が高い製品は、
売上が大きくても、会社に残る金額はわずかです。

そういった製品においては数量が増えれば増えるほど、
「忙しさ」だけが増え、利益が積み上がらない構造に陥ります。

原価計算が十分に機能していないケースが多い

売上と利益のズレが生じる背景には、
そもそも製品別・顧客別の原価が正しく把握できていない、
という問題があります。

多くの製造業では、
材料費や外注費といった直接費は把握できていても、
人がどれだけ関与しているのか、
どの工程にどれだけ時間がかかっているのかまでは、
十分に整理されていません。

その結果、勘と経験と度胸によって、経験則的に
「あの商品は儲かっている」「あの事業は赤字だ」などという判断がなされ、
結果として社内の判断がゆがんでしまうことに繋がり得ます。

原価計算について詳しく解説した記事はこちら

見積段階で見逃されている作業の存在

売上が立っているにもかかわらず利益が残らない背景には、
そもそも見積段階で織り込まれていないコストが存在します。

良く管理できている現場でも、材料費や加工時間といった
「見えるコスト」の把握ができている程度です。

一方で、実際の生産では、計画通りにいかない時間が必ず発生します。

いわゆる、余裕時間とよばれるもので、
突発的な機械のメンテナンスや、不具合の対応、
休憩や疲労による生産性の低下がそれにあたります。

現場では当たり前のものとして処理されますが、
見積や原価計算の前提には反映されていないケースが少なくありません。

見積の担当者が現場のリアルを認識できてない状態では
こうした時間を見積対象として計上せずに結果として、
利益を圧迫してしまいます。

限界利益とは何か

前章で見てきた通り、
売上額と利益額は、必ずしも比例しません。

作れば作るほど赤字、という製品が存在している企業様も
私の支援先で数多く見てきました。

その原因は、売上規模や粗利率だけを見て判断してしまい、
「どの取引が、どれだけ会社の利益に貢献しているのか」が見えていない点にあります。

こうした状況を整理するために有効なのが、
限界利益という考え方です。

経費の構造を知る:変動費と固定費

限界利益を理解するうえで、まず押さえておきたいのが、
経費の構造です。

費用は大きく以下の2つに分類することができます。

  • 変動費:生産量や受注量に応じて増減するもの
  • 固定費:売上の増減に関わらず一定額発生するものに分かれます。

変動費の代表例は、材料費や外注費です。
製品を1個多く作れば、その分だけ確実に増えます。
仕事を受けなければ、発生しない、あるいは大きく減少します。

一方、固定費には、人件費、設備の減価償却費、家賃、間接部門の費用などがあります。
売上が増えても減っても、短期的には簡単に変わらないコストです。

損益計算書(PL)の費目に準じて、製造原価と販管費で管理をしていますが、
製品一つあたりの原価を管理するためには、この区分を把握しておくことが重要です。

この変動費と固定費の関係と違いを理解したうえで初めて、
限界利益という考え方が意味を持ち始めます。

限界利益の定義と計算式

限界利益とは、
売上高から変動費を差し引いた金額を指します。

計算式:限界利益 = 売上高 − 変動費

ここでいう変動費とは、前節で整理した、生産量や受注量に応じて増減するコストです。

補足説明ですが、加工費の中に含まれる人件費について、
これは変動費ではないのか」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、人件費は、加工を行うかどうかに関わらず発生する費用です。

そのため、実務上は固定費として扱った方が、
管理も判断もシンプルになります。

さて、限界利益は、固定費を回収し、
最終的な利益を生み出すための原資です。

この数字が積み上がらなければ、
売上がどれだけ増えても、会社として利益は残りません。

売上や受注量を見るのではなく、
「一件あたり、いくら限界利益を生んでいるのか」
この視点に切り替えることが、
次の分析と判断につながっていきます。

粗利益と限界利益の違い ― なぜ限界利益で判断すべきなのか

粗利益と限界利益は、
どちらも「売上からコストを差し引いた残り」を表す指標ですが、
計算の前提と、そこから読み取れる意味は大きく異なります。

製品別の粗利益が正確に把握できており、
さらに販管費まで製品別・顧客別に整理できているのであれば、
その数字から経営判断を行うことも理論上は可能です。

しかし、多くの中小製造業では、
そこまで細かい管理ができていないのが実情です。

一方の限界利益は、
売上高から変動費だけを差し引いた金額です。
固定費は、あえて製品や顧客に割り振りません。

この考え方を取ることで、
「この取引を一件増やしたとき、会社にいくら残るのか」
という問いに、配賦なしで簡単に答えることができます。

つまり、
粗利益は「過去の結果」を確認する指標であり、
限界利益は「これからどうするか」を判断するための指標です。

価格を見直すべきか。
受注を続けるべきか。
どの製品・顧客から優先的に手を付けるべきか。

こうした意思決定の場面では、粗利益よりも限界利益の方が、
実態に即した判断材料になります。

製品別・顧客別に分析する意味

会社全体の損益だけを見ていると、
「どこで稼ぎ、どこが利益を毀損しているか」は見えにくくなります。

一部の製品や取引が利益を生み、
その裏で別の製品や顧客が負担になっている構造は、
決して珍しいものではありません。

価格転嫁や事業判断の精度を高めるためには、
まず個別の実態を正しく把握する必要があります。

全体の数字に隠れる個別の実態

会社全体の損益が黒字であっても、
その内訳を見てみると、状況は大きく異なることがあります。

一部の製品や顧客が高い利益を生み出す一方で、
別の製品や取引が、その利益を削っているという構造も、
決して珍しいものではありません。

全体の数字だけを見ている限り、
この歪みに気が付くことはできません。

製品別・顧客別に分解して初めて、
「どこで稼ぎ、どこで失っているのか」が見えてきます。

価格転嫁や事業判断を行う前提として、
まずこの実態を把握することが欠かせません。

価格転嫁の判断は一律ではできない

価格転嫁を検討する際、
すべての製品・すべての取引先に対して
同じ対応を取ることは現実的ではありません。

取引先との関係性。
競合の有無や強さ。
製品の差別化や代替可能性。

これらの条件は、製品ごと、顧客ごとに異なります。
にもかかわらず、全体一律で価格を上げようとすると、
無理な交渉や、関係悪化を招くリスクが高まります。

製品別・顧客別に限界利益を整理することで、
どこから手を付けるべきか、
どの取引が優先順位として高いのかが明確になります。

価格転嫁は、感覚ではなく、
分析に基づいて進める必要があります。

経営資源の配分を見直す基準になる

限界利益の分析は、
価格転嫁の判断だけにとどまりません。

限界利益が低い製品や取引に、
貴重な設備や人員、管理の手間が割かれている。

その結果、現場が忙しいにもかかわらず、
会社としての利益が伸びない。

こうした状態に、
全体の数字だけを見ていて気づくことは困難です。

製品別・顧客別の分析結果を並べていくと、
経営資源がどこに集中し、
どこで消耗しているのかが浮かび上がります。

その積み上げが、
事業ポートフォリオ全体を見直す判断材料になります。
どの事業を強化すべきか。
どの領域を見直すべきか。

製品別・顧客別の分析は、
個別判断のためのものでもあり、
同時に、経営全体を俯瞰するための基礎にもなります。

取適法の改正内容について詳しく解説した記事はこちら

まとめ

売上が伸びているにもかかわらず、利益が残らない。
その背景には、売上規模や発注量と、実際の利益貢献度を混同してしまう構造があります。

製造業では、原価構造が複雑であるがゆえに、
売上や粗利益といった表面的な数字だけを見て判断してしまいがちです。
しかし、その裏では、見積段階で織り込まれていない作業や時間が存在し、
知らないうちに利益を圧迫しているケースも少なくありません。

こうした状況を整理するための有効な視点が、限界利益です。
変動費だけを差し引いた限界利益を見ることで、
「どの製品・顧客が、どれだけ会社の利益に貢献しているのか」を
配賦に頼らず把握することができます。

さらに、限界利益を製品別・顧客別に並べて分析することで、
価格転嫁に取り組むべき優先順位や、
経営資源の配分の歪みが明確になります。
その積み上げは、個別の取引判断にとどまらず、
事業ポートフォリオ全体を見直すための判断材料にもなります。

価格転嫁は、一律に行うものではありません。
限界利益という視点を持つことで、
感覚ではなく、根拠をもって判断できるようになります。
売上ではなく、利益を起点に経営を考えること。
その第一歩として、本記事の内容を活用していただければ幸いです。

価格転嫁の手法を詳しく解説した記事はこちら

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