令和8年1月1日から改正された中小受託取引適正化法(取適法)について、皆さんは内容をご存じでしょうか?

具体的にどう変わるのかわからない

法律が変わったからって何かしなきゃいけないの?

そのようなお悩みを聞く機会も増えてきました。

そこで、今回は取適法の改正内容について解説するとともに、各社が注意しなければいけないことや、

知っておくと得することをまとめていきます。


法改正の背景

そもそも、今回の法改正はどのような背景をもとに、何を目的としてなされたものなのでしょうか?

最初は、これらを理解することで、法律の全体像を把握していきましょう

優越的地位を背景とした不適切な取引慣行の問題

もともと、発注側の企業と受託側の企業においては、どうしても発注側の企業が力関係が強いことが多いです。

そのため、受託側の企業は以下のような不利益を受けやすい状況がありました。

  • 契約外の過剰なサービスの要求
  • 無理な納期での注文
  • 極限までのコストカット

このような力関係を背景としたいびつな商取引が長年にわたって存在し、受託側企業の負担になっていました。

原則として、企業間の契約は「契約自由の原則」によって守られています。

しかし、力関係の勾配が原因となって起きている、いわゆる弱者側の不利益は、国としても保護をする必要があります。

従前から、下請代金支払遅延等防止法(下請法)を制定したりするなど、受託側企業を保護するような取り組みは行われていました。

下請法の限界

しかし、下請法では保護しきれない受託側企業がいたことも事実です。

従前の下請法では、以下のような発注側の行為を一定範囲で規制する役割を果たしていたのは事実です。

  • 支払い遅延の禁止
  • 不当な減額の禁止
  • 書面交付義務

しかし、その適用範囲は資本金要件に大きく依存しており、適用範囲外となってしまう取引が多く存在していたのです。

発注側は資本金を一定水準に抑えることで、意図的に下請法の適用外となる「適用逃れ」を行うことが可能でした。

その結果として、受託側企業はどれだけ不当な扱いを受けていても、保護対象にはならないといったケースも起きていました。

通報・相談機能の限界

中小企業が不適切な取引に直面した場合は行政への相談や通報が可能でした。しかし、実際のところ多くの中小企業にとっては利用しやすい仕組みとは言えませんでした。

通報したことが取引先に知られてしまうのではないか」「通報しても本当に動いてもらえるのか」という不安が常に付きまとい、実務上は声を上げづらい状況が続いていました。

更には日本の経済状況としても、安売りや手出しでもサービスを提供してでも取引先や売上を増やしたいという企業が多くいたことも、影響していました。

受託事業者においては、通報して取引を失うリスクは到底許容できない状況であったことも、通報や相談が昨日していない一因であったと言えます。

これらの構造的不利益の解消

下請法が取適法に改正される目的は、これらの構造的な不利益の解消にあります。

原材料・労務費・エネルギーコスト、全てが上昇していっている中で、今後企業運営に関わる費用が増えていくことは火を見るよりもあきらかです。

日本政府としても、失われた30年間に歯止めをかけるべく、デフレ脱却方針を目指すと宣言しています。

つまり、このコスト上昇基調は、今後も続いていくということです。

その中で受託側企業は、価格転嫁を行っていかなくてはならず、そのような状況下で、従来の力関係が維持されたままでは、受託側企業は疲弊するばかりか、最悪の場合事業継続が不可能になってしまいます。

こういった事態を避けるために、法律を整備し、受託側企業が適切に発注側企業に対して交渉力を発揮することが出来る環境を作ることが、今回の法改正の目的であります。

取適法の変更点

そのような背景を受け、取適法はどのように変更されたのでしょうか。

ここからは具体的な変更内容を見ていきます。

今回の改正では、従前の下請法ではカバーしきれなかった取引実態を是正するために、適用範囲・規制内容・実効性の三点が大きく見直されています。

資本金要件からの脱却(適用範囲の拡大)

最も重要な変更点は、資本金要件に依存した適用判断からの転換です。

従来の下請法では、発注側、受託側の資本金
によって適用の可否が決まっていました。

その結果、
・発注側が意図的に資本金を抑える
・グループ会社を使い分ける

といった形で、実質的には力関係が明確に存在するにもかかわらず、法律の適用外となる取引
多数存在していました。

取適法では、この点が是正され、「実質的な取引関係・支配関係」
を重視して判断される仕組みに改められています。

形式的な資本金ではなく、
・継続的な取引関係
・取引条件の決定力
・取引停止による影響度

といった実態を踏まえて、保護対象かどうかが判断されるようになりました。

規制対象行為の明確化・拡張

取適法では、従来から問題視されてきた行為に加え、より実務に即した形で規制内容が整理・明確化されています。

具体的には、以下のような行為が、より明確に問題行為として位置づけられています。

・契約内容を曖昧にしたまま業務を開始させる行為
・合理的な根拠なく、発注後に取引条件を変更する行為
・価格交渉の機会を与えない、または著しく形式的な交渉
・コスト上昇を一切考慮しない一方的な価格据え置き

特に重要なのは、
「価格交渉を行わないこと」そのものが問題となり得るという点です。

単に「値上げを断った」かどうかではなく、
・交渉の機会があったか
・説明や根拠の提示が行われたか
・その説明は合理的であったか

といったプロセス自体が問われるようになっています。

書面・情報開示に関する義務の強化

受託側が適切に交渉を行うためには、前提となる情報が不可欠です。

そのため、取適法では、
・契約条件
・業務内容
・対価の算定方法

といった点について、発注側が明確に示す責任が強化されています。

「これまで慣行でやってきた」「細かいことは後で調整する」といった曖昧な運用は、今後リスクになり得ます。

また、逆に言うと、金型の保管や納品時の特別対応など、そういった
書面外の特別なサービスなどは、今後認められなくなっていく世の中になっていくでしょう。

通報・是正の実効性向上

通報制度そのものも、実効性を高める方向で整備されています。

従来のように、「通報=取引停止のリスク」という構図を少しでも緩和するため、

・匿名性の確保
・調査手法の改善
・行政指導の透明化

といった点が意識されています。

もちろん、すべての不安が解消されるわけではありませんが、
「声を上げた瞬間に不利になる構造」
を是正しようとする姿勢が、制度設計上明確になっています。

受託側事業者が押さえておくべきポイント

取適法の改正は、「受託側を守る法律ができた」というよりも、
受託側が“動ける状態”を制度として用意した、という性格の方が近いです。
何もしなくても自動的に守られる、という話ではありません。

「泣き寝入り前提」の構造が前提ではなくなった

従来は、
・価格交渉を持ち出す
・条件の不当性を指摘する
こと自体が、取引関係の悪化リスクを伴っていました。

取適法では、価格交渉を求める行為そのものが正当な行為
として明確に位置づけられています。

ただし、覚えておく必要があるのは、「値上げが必ず通る」ではなく、
「交渉を求めることが問題視されない」という点です。

これにより、受託側は
・コスト上昇
・業務内容の増加
といった事実を踏まえた説明を、制度上の後ろ盾をもって行える 状態になりました。

感情論ではなく「構造」と「事実」が武器になる

取適法は、弱者救済を感情論で行う法律ではありません。

問われるのは、
・どのような業務を
・どの条件で
・どのような負担構造で
行っているか、です。

受託側にとって重要になるのは、次のような整理です。

・契約書、発注書、見積書の内容
・当初想定と実態の乖離
・原材料費、労務費、エネルギーコストの上昇事実

これらが整理されていれば、
交渉は「お願い」ではなく、合理的な調整になります。

逆に言えば、
根拠が整理されていない場合、取適法があっても有効には使えません。

「曖昧な契約」がリスクになるのは受託側でもある

取適法では、発注側の説明責任が強化されていますが、
それは裏を返せば、
曖昧な条件のまま業務を受けることが、受託側のリスクにもなるということです。

・どこまでが契約範囲か
・追加業務はどの時点で、どのように扱うのか
・単価の前提条件は何か

これらを言語化せずに進めてしまうと、
後から「不当だ」と主張することが難しくなります。

取適法は、
「言っていないことまで守ってくれる法律」ではありません。

通報は最終手段、まずは交渉プロセスの可視化

通報制度が整備されたとはいえ、
通報が第一選択になるケースは多くありません。

取適法の実務的な価値は、
「通報できる」ことよりも、「交渉プロセスを整えられる」こと
にあります。

・交渉を申し入れた事実
・説明資料を提示した事実
・合理的な話し合いを試みた履歴

これらが積み重なって初めて、制度が意味を持ちます。

まとめ

取適法の改正は、受託側事業者に対して「守ってもらう権利」を一方的に与えるものではありません。
不利な取引に対して、事実と根拠をもとに説明し、交渉することを正当な行為として位置づけ直した点に、この法改正の本質があります。

価格交渉ができない理由は、法律ではなく、取引の整理ができていないことにあるケースも少なくありません。
契約内容、業務範囲、コスト構造を言語化できているかどうかで、同じ法律の下でも結果は大きく変わります。

取適法は、受託側事業者にとって「最後の盾」ではなく、「交渉の前提条件を整えるためのルール」です。
この法改正をきっかけに、自社の取引を改めて見直し、説明できる状態にしておくことが、これからの企業経営において重要になっていくでしょう。

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