損益計算書を基に原価計算は行っている。それでも、原価管理が改善につながらない、
それを基に何を行えばよいかわからないと感じている現場も多いのではないでしょうか。
そういった現場に共通しているのが、、標準原価を置かずに
実際原価だけを見ている原価管理体制です。
標準原価によって、適正水準や目標水準を定めずに、比較の軸がなければ、
原価は評価できず、次の行動も定まりません。
本記事では、
標準原価を置かない原価管理が、なぜ改善を生まないのか。
その構造を整理します。
実際原価だけを見ている原価管理の限界
原価管理がうまく機能していないと感じている企業でも、
実際原価を集計し、確認するところまでは到達しています。
それにもかかわらず、
改善につながらない、判断に使えないという壁に突き当たります。
この章では、
なぜ実際原価だけを見ている原価管理が行き詰まりやすいのか。
その構造的な限界を整理していきます。
実際原価中心の原価管理が主流になっている理由
多くの中小製造業では、原価管理といえば実際原価を確認することを指します。
良く管理できている企業のレベルですら、
月次で材料費や人件費、間接費を集計し、
前月や前年差を確認するというところまででしょう。
そして、実際原価のみの管理となっている背景には
人手や知識不足などがあるのだと想像できます。
実際に私が支援した企業でも、実績を追うだけで手いっぱいという企業や、
実績ベースの原価計算以外の手段を知らないという企業を多く見受けました。
ただし、実際原価を否定しているわけではありません。
まず現状を把握するという意味では、重要な役割を果たしています。
実際原価は「結果」しか示さないという限界
一方で、実際原価が示しているのは、あくまで起きた結果です。
そこには、良し悪しの判断や、次に取るべき行動までは含まれていません。
原価が上がっているという事実は分かっても、
それが許容範囲なのか、異常なのかは判断できない。
まさに勘と経験と度胸の世界での判断しかすることができません。
そして、実際原価だけを基にした原価管理では、
原価変動の原因を切り分けることが難しくなります。
外部環境の影響なのか。
現場のやり方によるものなのか。
一時的な要因なのか、構造的な問題なのか。
こうした問いに対して、
実際原価そのものは答えを持っていません。
結果として、原価は「説明される数字」にとどまり、
意思決定や改善の材料として使われにくくなります。
改善テーマが抽象・感覚論に戻ってしまう構造
原価の数字から具体的な示唆が得られないと、
議論はどうしても抽象的であったり、感覚論に陥ってしまいます。
忙しさや現場感覚としての違和感は共有されるものの、
それが原価や改善と結びつかず、改善テーマとして整理されない。
結果として、本当の問題に気が付くことができず、
慢性的に同じ課題を抱えることになってしまいます。
判断軸がない原価管理は、改善を生まない
原価管理の目的は、
「何が起きたか」を知ることではありません。
「どこにズレがあり、何を直すべきか」を判断することにあります。
そのためには、
実際原価を評価するための基準が必要です。
比べる軸がなければ、ズレはズレとして認識されません。
実際原価だけを見ている原価管理が行き詰まるのは、
努力や意識の問題ではなく、
最初から判断軸が存在しない構造に原因があります。
次章では、
この判断軸が欠けていることで、
原価管理にどのようなズレが生じていくのかを、
もう一段具体的に整理していきます。
標準原価計算とは何か
前章では、実際原価のみを基準とした原価管理が、
判断や改善につながりにくいという現象を整理しました。
本章では、その背景にある会計理論上の構造に踏み込みます。
焦点となるのが、標準原価計算という考え方です。
これは単なる原価算定手法ではなく、管理会計において
原価を評価し、統制するための理論的枠組みです。
標準原価はどのように設定されるのか
標準原価は一つの数字として扱われがちですが、
管理会計上は、原価要素ごとに分解して設定されます。
それぞれの原価要素で前提条件が異なるため、
設定の考え方も同一ではありません。
労務費における標準原価の考え方
労務費の標準原価は、
標準賃率と標準作業時間の積によって構成されます。
現場目線では、時間チャージ×作業時間といった方が馴染はあるかもしれません。
ここで設定される標準作業時間は、
最短時間や理想的な作業速度を意味するものではありません。
通常の作業者が、標準化された作業方法に基づいて
無理なく遂行した場合に要すると見込まれる時間が前提となります。
ムリなく、というのが見落とされがちで、
余裕時間の考慮をしていない時間チャージの設定などが
良く見受けられます。
人間が作業をする以上、生理現象や疲労などの影響を無視することはできません。
それらを無視した原価設定は、かならず破綻します。
同様に、標準賃率も一時的な残業や特別手当を排除し、
通常の賃金水準を基準として設定されます。
労務費の標準原価は、作業効率や人員配置の
妥当性を評価するための基準として機能します。
材料費における標準原価の考え方
材料費の標準原価は、
標準単価と標準使用量によって構成されます。
標準使用量は、理論上の最小投入量ではなく、
通常の工程において避けられないロスや歩留まりを織り込んだ水準で設定されます。
同様に、標準単価もスポット価格や一時的な高騰を前提にするのではなく、
通常の調達条件に基づく平均的な価格水準を参照します。
材料費の標準原価は、
購買条件や工程安定性が原価に与える影響を評価するための基準となります。
加工費・製造間接費における標準原価の考え方
加工費や製造間接費の標準原価は、
設備能力や操業度といった前提条件をもとに設定されます。
たとえば、
一定の稼働率を前提とした設備費や、
標準的な操業条件下で発生する光熱費などが考慮されます。
ここで重要なのは、
フル稼働や極端な低操業度を前提にしないことです。
通常操業において想定される水準を基準とすることで、
操業度の変動が原価に与える影響を把握しやすくなります。
加工費の標準原価は、
設備利用の効率性や間接費構造を評価するための参照点として機能します。
標準原価と実際原価のズレはなぜ生じるのか
標準原価を設定したとしても、
実際原価と完全に一致することはほとんどありません。
管理会計において重要なのは、
ズレをなくすことではなく、
ズレが生じた理由を特定し、対処ができる状態をつくることです。
外部環境の変化によるズレ
材料価格の変動や、エネルギー価格の上昇など、
企業努力ではコントロールできない要因によって、
実際原価が標準原価を上回る場合があります。
特に、コロナウイルス以降、従来の購買の常識は完全に変化しました。
価格努力は限界を迎え、コストを減らす限界が如実に表れています。
原価は毎年増大するものであると認識をした上で、
目安とするべき原価も毎年見直しを行う方が、
利益体制を確保するためには堅実でしょう。
このズレは、原価管理の失敗ではなく、
環境変化を数値として認識できている状態だと捉えるべきものです。
作業条件や工程変動によるズレ
予期せぬ受注増や、段取り替えの増加や、工程トラブル、
熟練度の違いによる作業時間の変動なども、
標準原価との差を生じさせる要因になります。
また、先に触れた通り、人間が作業に入る以上は、
人間の体調や生理現象にどうしても左右されます。
常に100%の効率を再現できるはずもなく、
それを前提とした時に、かならずズレは生じます。
こうしたズレは、
現場の運用や工程設計の妥当性を検証する材料となります。
前提条件の乖離によるズレ
標準原価は、一定の前提条件のもとで設定されています。
操業度や生産量がその前提から大きく外れた場合、
ズレが拡大するのは自然な結果です。
この場合、ズレの原因は実際原価ではなく、
前提条件そのものが現実に合っていない点にあります。
繰り返し伝えますが、標準原価と実際原価のズレは、
問題そのものではありません。
ズレは、管理会計において
原価構造を理解し、改善点を特定するための出発点であり、
そこから何を行う化こそが真に重要なことになります。
標準原価が存在しない現場で起きている事象
前章では、標準原価計算が管理会計上どのような役割を持ち、
なぜ差異という概念が成立するのかを整理しました。
本章では視点を理論から現場に移します。
標準原価を置かない原価管理を続けた結果、
製造現場や経営の現場で実際にどのような事象が起きているのかを確認していきます。
原価報告が「説明の場」で終わる
標準原価が存在しない場合、
原価管理の場は、結果を説明するための場になりやすくなります。
原価が前月よりも多くかかった場合、その説明自体は必要ですが、
それが次の行動につながることは多くありません。
また、繋がったとしても、それが本質的な課題を指摘できることは稀ですし、
その指摘の再現性もありません。
最悪の場合、今月はなぜか赤字だ、と首をかしげて終わりです。
なにかを打つ必要があることはわかるものの、
何をすればいいかわからない、そんな状況が続くでしょう。
改善テーマが数値と結びつかない
標準原価がない環境では、
改善テーマの多くが原価と切り離された形で立ち上がります。
現場では、作業のやりにくさや負荷の増大、トラブルの頻発といった
違和感が日常的に共有されています。
これらは確かに重要な兆候ですが、原価との関係が整理されていないため、どこから手を付けるべきかを判断できません。
その結果、改善は場当たり的になり、原価全体に
どのような影響を与えたのかが分からないまま進んでいきます。
結果として、
改善は個別最適にとどまり、
原価全体への影響が見えないまま進んでいきます。
本来的に、製造というのは付加価値を付与するプロセスであり、
付加価値=粗利です。
とすると、原価の低減も付加価値の増大 = 製造現場の重要な機能になります。
その重要な機能を果たすにあたって、自信がなにをすべきか良いかわからない
これは、ものすごく重要な問題であると感じませんか?
現場と経営の会話のミスマッチ
経営側は、
原価を下げたい、利益を改善したいと考えています。
一方、現場側は、忙しさや制約の中で作業を回しています。
標準原価が存在しない場合、
両者をつなぐ基準がありません。
経営は抽象的な数値を示し、
現場は個別の事情を訴える。
その結果、会話は噛み合わなくなります。
原価管理が形骸化していく
こうした事象が積み重なると、
原価管理は次第に形だけのものになります。
原価の数字や報告資料は揃っているものの、
それらが意思決定の基準として扱われていないケースは少なくありません。
最悪のケースでは、報告対象、管理対象にすらなっていないこともあります。
結果として、原価管理は形式的な確認作業にとどまり、
経営判断や改善行動へと結びつかない状態が続きます。
つまり、原価管理は続いているように見えて、
実質的には止まっている状態です。
現実的に、中小製造業では、工場長クラスですら、
原価計算の重要性を理解できていないこともままあります。
これは、
現場の姿勢や能力の問題ではありません。
判断基準を欠いたまま原価を扱っている構造に問題があります。
まとめ
本記事では、実際原価と標準原価の違いを整理しました。
実際原価は起きた結果を示す数字にとどまりますが、
標準原価は原価を評価するための基準となり、
改善や意思決定へとつながる参照点になります。
そして、両者の違いは、計算方法ではなく、
原価を「結果として眺めるか」「行動の起点として使うか」という視点の差にあります。
次回は、標準原価をどのように設計し、
実際の原価管理や改善活動にどう結びつけていくのか。
標準原価を置くことで、現場と経営の見え方がどう変わるのかを具体的に整理していきます。
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