製造業における原価計算は、単なる会計手法に誤解されがちです。
企業経営の根幹を支える重要な仕組みです。
人口減少やインフレ、円安といった外部環境の変化、
さらにはAIやデジタル技術の進展によって、製造業の現場は
これまで以上に迅速かつ的確な原価管理が求められています。
原価計算を正しく理解し、材料費・労務費・間接費といった
コスト構造を把握することは、利益の最大化や競争力の強化だけでなく、
適切な価格設定や値上げ交渉、持続的なコストダウンの実現にも直結します。
本記事では、製造業原価計算の基本から最新のデジタル動向、
日本的なカイゼン原価管理まで、体系的かつ実践的に解説します。
これからのものづくり企業が直面する課題と向き合い、
経営に活かせる原価計算の全体像をお伝えします。
製造業における原価計算の意義と役割
製造業における原価計算は、決算書を作るための作業ではありません。
本質は、経営判断のための情報基盤にあります。
原価計算の基本的な考え方から、
なぜ今の製造業において重要性が増しているのかまで、順を追って整理していきます。
原価計算の基本概念と目的
原価計算とは、製品やサービスを生み出すために要したコストを、
体系的に集計・分析するための会計手法です。
具体的には、材料費、労務費、経費といった要素を分解し、
「何に、どれだけコストがかかっているのか」を明らかにします。
これにより、企業は自社のコスト構造を可視化できます。
- どの製品が利益に貢献しているのか
- どの工程に無駄が潜んでいるのか
- 改善余地はどこにあるのか
こうした問いに、数字で答えられるようになります。
つまり、原価を可視化することで、在庫評価やキャッシュフロー管理、
戦略的な価格決定など、経営の土台となる判断にまで、繋がっていきます。
製造業における原価管理の重要性
製造業では、原価の変動がそのまま利益に直結します。
材料価格の上昇、
人件費の増加、
設備投資や外注費の変化。
原価の変化を注視し、無駄を把握し、効率を高め、
必要なところに適切にコストをかける。
その結果として、利益率が改善し、競争力が高まります。
特に近年は、サプライチェーンの複雑化やインフレ、最低賃金の上昇、
エネルギーコストの高騰など、外部環境の変化が激しくなっています。
こうした環境下では、
原価を把握していない企業ほど、影響を大きく受けます。
管理会計と財務会計、原価計算の位置づけ
会計には、大きく分けて二つの役割があります。
一つは、株主や金融機関、税務当局など、
社外の利害関係者に向けて経営成績を報告する財務会計。
もう一つは、経営者や現場マネージャーが意思決定を行うための管理会計です。
原価計算は、この管理会計の中核に位置します。
「この価格で受注してよいのか」
「この製品を続けるべきか、やめるべきか」
「どこに改善投資をすべきか」
こうした判断は、財務会計の数字だけでは行えません。
内部の詳細な原価情報があって、初めて可能になります。
つまり、原価計算は、経営判断の土台であり、前提ということです。
現代の経営環境と原価管理の課題
現在の製造業は、複数の逆風の中に置かれています。
- 人口減少による人手不足
- インフレと円安によるコスト上昇
- サプライチェーンの不安定化
- エネルギー価格の高騰
加えて、AIやデジタル技術の進展により、
経営判断のスピードと精度が強く求められる時代になっています。
こうした環境において、
経験や勘だけに頼った原価管理は、もはや限界があります。
必要なのは、
データに基づき、再現性のある原価管理体制です。
原価計算は、単なる数字の作業ではありません。
利益を守り、競争力を高め、会社を持続的に成長させるための仕組みです。
製造業経営のあらゆる局面で、
原価計算は使われるべき「武器」だと言えます。
原価の分類と基本構造
製造業で原価計算を行ううえで、最初につまずきやすいのが
「原価をどう分けて考えるか」という点です。
計算が合わない、数字が腑に落ちない。
その原因をたどっていくと、ほとんどの場合、原価の分類が曖昧なまま進んでいます。
ここでは、製造業の現場で実際に使える視点に絞って、
原価の基本構造を整理していきます。
原価の三要素(材料費・労務費・経費)
原価計算の出発点になるのが、
材料費・労務費・経費という三つの要素です。
材料費は、製品をつくるために直接投入される原材料や部品。
労務費は、製造作業に関わる人の時間に対して支払われる賃金や手当。
経費は、それ以外に製造活動を支えるために発生する費用全般です。
光熱費や減価償却費、工場の消耗品費、外注先への費用などが、ここに含まれます。
この三つを分けて考える意味は、
「どこにお金が流れているのか」を構造として捉えるためです。
材料が高いのか。
人に時間がかかっているのか。
それとも、設備や間接的なコストが重いのか。
三要素を整理するだけで、
製品ごとのコストの癖や課題が見え始めます。
直接費と間接費の区分
次に重要になるのが、直接費と間接費の考え方です。
ある製品に、そのままひも付けられるコスト。
それが直接費です。
材料費や、特定製品の加工にかかった作業時間の人件費は、
比較的イメージしやすいでしょう。
一方で、工場全体で使われる光熱費や、
複数の工程を管理する管理者の給与などは、
特定の製品だけに結び付けることができません。
こうしたものが間接費です。
間接費は、配賦という考え方を使って、
何らかの基準で製品ごとに割り振っていきます。
この区分が曖昧だと、
製品別の原価は簡単に歪みます。
「儲かっているはずの製品が、なぜか苦しい」
そんな違和感の正体は、間接費の扱いにあることが少なくありません。
製造原価と販売管理費
会社全体のコストは、大きく二つに分けて考えます。
一つは、製品をつくるために必要な製造原価。
もう一つは、売るため・管理するためにかかる販売管理費です。
製造原価には、ここまで見てきた三要素が含まれます。
一方、販売管理費には、営業担当者の人件費や広告費、
事務所の家賃や管理部門のコストが入ります。
この区分を意識することで、
「ものづくり自体が苦しいのか」
「売り方や管理の問題なのか」
という視点で損益を見られるようになります。
製造原価と販管費を一緒くたにしていると、
改善すべきポイントを誤ってしまいます。
変動費と固定費の違い
原価管理を実務で使う段階になると、
必ず登場するのが変動費と固定費の考え方です。
生産量が増えれば増えるほど増えていくコスト。
これが変動費です。
材料費や、作業時間に比例する人件費が代表例になります。
一方で、生産量が変わっても一定額発生し続けるもの。
これが固定費です。
工場の家賃や、管理職の給与などが該当します。
この区分を押さえると、
損益分岐点や利益計画の見え方が一変します。
「どこまで売れれば黒字になるのか」
「受注を増やしたとき、利益はどれだけ伸びるのか」
こうした問いに、数字で答えられるようになります。
原価の分類は、会計用語を覚えるためのものではありません。
現場で起きていることを、数字で説明できるようにするための道具です。
この基礎が固まっていないままでは、
どれだけ計算表を整えても、経営判断には使えません。
原価を構造として理解すること。
それが、利益を安定して生み続けるための、最初の一歩になります。
原価計算の主要手法
原価計算と一口に言っても、やり方は一つではありません。
製品のつくり方や生産形態、経営で知りたいことによって、使われる手法は変わります。
重要なのは、
「正しい方法を選ぶこと」ではなく、
「自社の状況に合った見方を選ぶこと」です。
ここでは、製造業でよく使われる代表的な原価計算手法を、
実務での使いどころを意識しながら整理していきます。
総合原価計算と個別原価計算
まず押さえておきたいのが、
総合原価計算と個別原価計算の違いです。
総合原価計算は、同じ規格の製品を大量に生産する現場で使われます。
一定期間にかかった総コストを、その期間の生産数量で割り、
製品一個あたりの原価を平均的に求める考え方です。
連続生産や量産型の工場では、この方法が自然にフィットします。
一方、個別原価計算は、案件ごとに仕様が異なる場合に力を発揮します。
受注生産や小ロット多品種生産では、
「どの仕事に、どれだけコストがかかったのか」を追いかける必要があります。
材料費、作業時間、人の関わり方。
それらを案件単位で積み上げていくことで、
仕事ごとの利益率や採算が見えてきます。
自社の生産スタイルがどちらに近いか。
この問いが、最初の分かれ道になります。
標準原価計算と実際原価計算
次に、原価をどう捉えるかという視点です。
標準原価計算では、
「本来、このくらいでできるはず」という基準値をあらかじめ設定します。
そして、実際にかかった原価と比べて、
どこに差が出たのかを見ていきます。
材料を使い過ぎていないか。
作業に時間がかかり過ぎていないか。
設備の使い方に無理はなかったか。
こうしたズレを通じて、
現場の改善ポイントが浮かび上がります。
一方、実際原価計算は、
発生したコストをそのまま集計する考え方です。
数字としての正確さは高いものの、
「なぜそうなったのか」という分析には、ひと手間かかります。
管理や改善を重視するなら標準原価。
実態把握を優先するなら実際原価。
目的によって、見るべき数字は変わります。
吸収原価計算と直接原価計算
ここで、原価に何を含めるかという話に移ります。
吸収原価計算では、
変動費だけでなく、固定費も製品原価に含めます。
工場全体の製造間接費を製品に配賦し、
「全部込みの原価」をつくるイメージです。
財務会計や外部報告では、この考え方が前提になります。
一方、直接原価計算では、
変動費のみを製品原価として扱います。
固定費は期間のコストとしてまとめて処理し、
製品ごとの損益をよりシンプルに捉えます。
受注判断や利益計画を考える場面では、
こちらの方が感覚的に分かりやすいことも多いでしょう。
どちらが正しいかではなく、
どの判断に使う数字なのかが重要になります。
活動基準原価計算(ABC)の考え方
間接費が重くなってくると、
従来の配賦方法に違和感が出てきます。
「人手のかかる製品と、そうでない製品が同じように間接費を負担している」
そんな状況が起きやすくなります。
そこで登場するのが、活動基準原価計算、いわゆるABCです。
間接費を、
作業や活動の発生量に応じて割り振る考え方です。
受注処理の回数。
段取り替えの頻度。
検査や調整にかかる工数。
こうした実際の動きに基づいてコストを見ることで、
「本当に手間のかかっている製品」が浮き彫りになります。
間接費の内訳を見直したいとき、
価格の付け方に違和感があるとき。
ABCは、考え方として大きなヒントを与えてくれます。
原価計算の手法は、
覚えるものではなく、使い分けるものです。
自社の生産形態。
知りたい経営情報。
判断したい場面。
これらを意識しながら手法を選ぶことで、
原価計算は単なる数字の集計から、
経営を動かす道具へと変わっていきます。
製造間接費の配賦と管理
原価計算の中で、最も扱いが難しいのが製造間接費です。
工場の家賃や光熱費、設備の減価償却費。
これらは確実に発生しているにもかかわらず、
どの製品に、どれだけ関係しているのかが見えにくい。
この間接費の扱い方次第で、
製品別の原価は大きく変わります。
そして、そのズレはそのまま、価格判断や利益判断のズレにつながります。
製造間接費の配賦方法
製造間接費は、直接製品にひも付けられない以上、
何らかの基準を設けて配り分ける必要があります。
これを配賦と呼びます。
現場でよく使われてきたのは、
直接労務時間、直接労務費、機械の稼働時間、生産数量といった基準です。
たとえば、
工場全体の間接費を総労務時間で割り、
各製品の作業時間に応じて割り振る方法。
あるいは、
設備の稼働時間を基準にして配賦する方法もあります。
こうした手法は、分かりやすく、運用もしやすい。
その一方で、「本当に実態を表しているのか」という問いが常につきまといます。
近年では、
より現場の動きに近づけるために、
活動基準原価計算(ABC)を考え方として取り入れるケースも増えています。
配賦基準の選定と課題
配賦で最も重要なのは、
「なぜ、そのコストが発生しているのか」という視点です。
つまり、間接費を生んでいる要因、
いわゆるコストドライバーと、
配賦基準がどれだけ噛み合っているかが問われます。
労務時間を基準にしているものの、
実際には設備の段取り替えや検査回数が負担になっている。
そんな状況では、原価は簡単に歪みます。
特に、多品種少量生産や自動化が進んだ現場では、
単純な生産量や作業時間だけでは実態を捉えきれません。
「手間がかかる製品」と
「流すだけで終わる製品」が、
同じように間接費を負担している。
この違和感に気づけるかどうかが、
原価管理の質を分けます。
製造間接費のコントロールと予算管理
間接費は、配るだけでは終わりません。
管理し、コントロールしてこそ意味を持ちます。
基本となるのは、
部門ごと、あるいは活動ごとに予算を設定し、
実績との差を定期的に確認することです。
どこで増えたのか。
なぜ増えたのか。
一時的なものなのか、構造的なものなのか。
こうした差異を追いかけることで、
改善の糸口が見えてきます。
近年は、
デジタル技術やAIを活用し、
間接費の動きをリアルタイムで把握できる環境も整いつつあります。
ただし、仕組み以上に重要なのは、
「間接費も管理できるコストだ」という意識を、
現場と管理部門の双方が持つことです。
製造間接費の配賦と管理は、
原価計算の中でも地味で、後回しにされがちな領域です。
しかし、ここに向き合わなければ、
原価の精度はいつまでたっても上がりません。
現場の実態を反映した配賦基準。
継続的な差異の確認と改善。
この積み重ねが、
経営判断の質を静かに、しかし確実に引き上げていきます。
標準原価計算と差異分析
先ほども紹介した標準原価計算において、
肝になるのが差異分析まで行うことです。
実際にかかった原価を集計するだけでは、
「高かった」「安かった」という感想しか残りません。
そこに、
比べるための基準を置くことで、
原価は初めて改善の対象になります。
標準原価の設定
標準原価は、
「本来、この条件であれば、このくらいで収まるはず」
という目安です。
材料であれば、
想定される単価と、合理的な使用量。
作業であれば、
現実的な作業時間と賃率。
過去の実績や、現場の標準作業、
設備の能力などを踏まえながら、
無理のない水準に設定します。
ここで重要なのは、
理想論に寄せ過ぎないことです。
現場とかけ離れた標準は、
守られない目標になり、
やがて見られなくなります。
標準原価は、
現場が「意識できる水準」に置いて初めて意味を持ちます。
実際原価との比較と差異分析
標準を置いたら、次は比べます。
月次や四半期ごとに、
実際に発生した原価と標準原価を並べ、
どこに差が出たのかを見ていきます。
この差が、差異です。
差異は、
単価の違いによるものなのか。
使用量や作業時間の違いによるものなのか。
材料費、労務費、経費ごとに分けて考えることで、
「ズレの正体」が見えてきます。
価格が上がったのか。
ムダが出たのか。
やり方が変わったのか。
差異分析は、
責任追及のための作業ではありません。
計画と現実のズレを、
事実として捉えるための工程です。
差異要因の分析と改善
差異が見えたら、
次は理由を掘り下げます。
材料価格の変動。
歩留まりの悪化。
作業の停滞や手戻り。
原因は、現場の中にあります。
ここで大切なのは、
数字を持って現場と会話することです。
「高かった」「遅かった」ではなく、
「どこで、なぜ、こうなったのか」を共有する。
調達先を見直すのか。
工程を組み替えるのか。
作業標準を修正するのか。
差異分析は、
PDCAを回すための起点になります。
一度で完璧にする必要はありません。
小さなズレに気づき、
少しずつ修正していく。
この積み重ねが、
原価管理を現場に根付かせていきます。
標準原価計算と差異分析は、
数字を管理するための仕組みではありません。
現場の感覚と、
経営の判断をつなぐための道具です。
この仕組みが回り始めると、
原価計算は「後追いの集計」から、
「先を読むための情報」へと変わっていきます。
管理会計における原価情報の活用
ここまで原価をどう計算し、どう整えるかを見てきました。
次に問われるのは、
その数字を、経営でどう使うのかです。
原価計算は、出しただけでは意味がありません。
判断に使われて初めて、管理会計になります。
この章では、原価情報が実際にどのように経営判断へつながっていくのかを整理していきます。
製品別・顧客別・部門別の限界利益管理
利益を伸ばそうとするとき、
売上だけを見ていても答えは出ません。
重要なのは、
どこが利益を生み、どこが食っているのかを知ることです。
そこで使われるのが、限界利益という考え方です。
売上から変動費を引いた残り。
これが、その製品や顧客、部門が、
固定費や最終利益にどれだけ貢献しているかを示します。
限界利益で見ると、
売上は大きいのに、ほとんど貢献していない仕事が見えてきます。
逆に、売上規模は小さくても、
安定して利益を生んでいる分野も浮かび上がります。
この見え方が変わることで、
判断の軸が変わります。
伸ばすべきもの。
見直すべきもの。
やめる選択肢を検討すべきもの。
限界利益管理は、
感覚ではなく、構造で経営を見るための道具です。
変動損益計算書(CVP分析)と意思決定
限界利益をもう一段、経営判断に近づけたものが、
変動損益計算書、いわゆるCVP分析です。
売上と変動費、固定費、利益、この関係を一枚の構造として捉えることで、
判断が具体的になります。
どこまで売れば黒字になるのか。
価格を少し上げたら、利益はどう動くのか。
コストを削った場合、どこまで効果があるのか。
これらを、
「多分こうなる」ではなく、数字で確かめられるようになります。
CVP分析は、
予算や計画を立てるためだけのものではありません。
日常の意思決定を、
一段冷静にしてくれ、利益の最大化に貢献してくれるでしょう。
原価情報による価格設定・値上げ交渉
原価情報が最も力を持つ場面の一つが、
価格設定や値上げ交渉です。
「これ以上は厳しい」
「原価が上がっている」
そう感じていても、
数字で示せなければ、交渉は感情論になります。
原価を分解し、
どこが、どれだけ上がっているのかを示す。
こうした事実を積み上げて初めて、
価格の話は建設的になります。
コストプラスで考えるのか。
戦略的に利益を確保する価格を置くのか。
いずれにしても、
原価情報がなければ、選択肢自体が見えません。
現代の製造業では、
「価格を上げられるか」ではなく、
「説明できるか」が問われています。
管理会計における原価情報の役割は、
現場を縛ることではありません。
現場の実態を、
経営の言葉に翻訳することです。
原価が見え、
構造が分かり、
判断に使われる。
この循環が回り始めたとき、
原価計算は、会社を守り、強くする武器になります。
コストコントロールとコストダウンの実践
原価が見え、構造が分かり、
管理会計として使えるようになると、
次に出てくるのがコストをどう扱うか、というテーマです。
ここで注意したいのは、
コストダウン=削ることではない、という点です。
削ってはいけないところを削れば、
品質が落ち、現場が疲弊し、
結果的に利益も失われます。
コストコントロールとは、
使うべきところに使い、
使わなくていいところを見極める作業です。
コスト削減の基本的な考え方
製造業のコスト削減は、
場当たり的な節約では続きません。
軸になるのは、
無駄をなくし、プロセス全体を軽くすることです。
その多くは、実は現場が動き出す前、
設計段階ですでに決まっています。
つくりやすい構造か。
組み立てやすい形状か。
無理な精度や仕様になっていないか。
こうした視点で設計を見直すことで、
材料費や作業時間は大きく変わります。
また、現場に入ってからできることもあります。
動線の整備や、探す時間を減らすこと、設備の稼働時間を増やすことなど、
リーン生産、5S、TPM、名前は違っても、狙いは同じです。
余計なことをしなくて済む状態をつくる。
それが、長く効くコスト削減になります。
主要コストの管理という考え方
コストは、分解して見なければ動かせません。
材料費と、労務費と、間接費。
それぞれ、効きどころが違うので、一つずつ見ていきましょう。
材料費
単価だけでなく、使い方の問題でもあります。
歩留まりはどうか。
過剰在庫になっていないか。
調達先が固定化し過ぎていないか。
常に生産体制や調達の見直しを行うことで、最適化を図り、
必要なものを必要なだけ調達することが重要です。
特に、過剰在庫は製造原価報告書には現れず、見落としがちなので、
しっかりと調達と製造が連携を行いましょう。
労務費
単に人を減らす話ではありません。
作業が標準化されているか。
人の配置は合っているか。
設備投資で楽にできる部分はないか。
機械の稼動だけでなく、人の稼動も最適化することで、
不要な残業代や、採用する必要のなかった人材の採用を防ぐことができます。
また、人の問題は受注体制に問題があることも多いです。
残業が慢性化していて、人件費が膨れている場合には、
受注を問題視してみると、解決の糸口があるかもしれません。
間接費
間接費は、間違いなく放っておくと増え続けます。
エネルギーの使い方。
設備の稼働率。
間接業務のやり方。
これらのコストを増やさないためには、各人が常に
省エネ・節約コストを持つことが大切ですが、
残念ながらどの職場にもコスト意識の薄い人はいます。
何故、省エネや消耗品の買い控えを行うのか、
従業員に説明をし、従業員の自主性を高める動きが必要です。
どれも、
定期的に立ち止まって見直さなければ、
気づかないうちに重くなっていきます。
重要なのは、
一度やって終わりにしないことです。
数字を見て、
現場で考えて、
また数字で確かめる。
この往復が、コストをコントロールします。
原価低減活動と日本的な強み
日本の製造業が培ってきた強みの一つが、
現場主導の改善です。
カイゼンは、
派手な改革ではありません。
少し楽にする。
少し減らす。
少し早くする。
その積み重ねが、
結果として大きな原価低減につながります。
重要なのは、
現場が主体になることです。
やらされる改善は続きません。
自分たちで気づき、変えられる余地があるとき、
改善は文化になります。
もう一つの考え方が、
ターゲットコスティングです。
売れる価格を先に置き、
そこから逆算して、
どこまで原価を落とせるかを考える。
設計、調達、生産。
すべてが関わらなければ成立しません。
だからこそ、
組織全体の意思が問われます。
コストコントロールとコストダウンは、
一部門だけの仕事ではありません。
現場の改善力と、
経営の方向性。
この二つがかみ合ったとき、
会社の利益体質は確実に変わります。
削るために削るのではなく、
強くなるために整える。
この視点を持てるかどうかが、
コスト管理の成否を分けます。
デジタル化・DXと原価計算の進化
原価計算の世界でも、
デジタル化の波は確実に入り込んできています。
かつては、
月末に数字を集め、
翌月になってようやく原価が見える。
そんな時間感覚が当たり前でした。
今は、
「起きていることを、その場で把握する」
ことが現実になりつつあります。
ただし、
デジタル化そのものが目的になると、
原価管理はうまくいきません。
何が変わり、
何は変わらないのか。
そこを整理しておく必要があります。
デジタル技術による原価管理の高度化
IoT、AI、RPAに代表される技術が原価管理にもたらした一番の変化は、
データの集まり方です。
これまで人が記録しなければならなかった情報が、
自動的に集まるようになっています。
その結果、
工程ごとのコストや負荷が、
より細かく、より正確に見えるようになりました。
紙やExcelで管理していた頃には、
「何となくそう思っていた」レベルだった違和感が、
数字としてはっきり現れます。
ただし、
データが取れるようになっただけでは、
原価管理は良くなりません。
見えた数字を、
どう解釈し、どう使うか。
ここは、人の仕事として残り続けます。
データドリブン経営とリアルタイム原価情報
データドリブン経営という言葉が使われる背景には、
判断のスピードが求められている現実があります。
異常が起きてから気づくのでは遅い。
兆しの段階で手を打ちたい。
そのために、
原価情報もリアルタイム化が進んでいます。
材料の使い過ぎや、設備停止による負荷増大などの
変化を、後追いではなく、その日のうちに把握できる環境になっています。
多品種少量生産や短納期対応の現場では、
この差がそのまま利益の差になります。
ただし、
リアルタイムで見えることと、
リアルタイムで判断できることは別です。
数字を見て、
「何が起きているのか」を理解できなければ、
スピードは武器になりません。
Industry 4.0時代の原価計算の位置づけ
Industry 4.0が目指しているのは、
単なる自動化ではありません。
工場の中だけでなく、
サプライチェーン全体を含めて、
最適化することです。
設備データ、生産計画、調達コスト、物流コストなどを
バリューチェーンとしてつなげることで、
原価は「結果」ではなく、「予測」できるものに近づいていきます。
AIによる原価予測。
MESとERPの連携による全社的な可視化。
こうした仕組みが整うほど、
原価計算は、
経営戦略そのものと直結していきます。
一方で、
どれだけ高度な仕組みを入れても、
原価の考え方そのものが曖昧であれば、
数字は正しく使われません。
デジタル化・DXは、
原価計算を「楽にする」ものではありません。
原価のズレや歪みを、
これまで以上に露わにします。
ごまかしが効かなくなる分、
向き合う覚悟が求められます。
数字がすぐに見える時代だからこそ、
原価をどう理解し、どう判断に使うか。
その力が、これまで以上に、
製造業の競争力を左右することになります。
まとめ
原価計算は、単なるコスト集計ではありません。
製造業においては、現場の実態を数字に翻訳し、経営判断につなげるための基盤です。
原価の構造を理解し、正しく配賦し、
差異を通じて改善につなげる。
この一連の流れが回って初めて、原価計算は機能します。
デジタル化が進むことで、原価情報はより速く、より正確に手に入るようになります。
一方で、数字をどう読み、どう使うかという力は、これまで以上に問われます。
現場の改善力と、経営の意思。
その両方をつなぐ役割を担うのが、原価計算です。
守りの集計から、攻めの判断へ。
原価計算は、これからの製造業経営において、確実に中心的な位置を占めていきます。
当サイトでは、原価計算を経営に活かすための具体的な考え方や実務の整理を、
引き続き発信していきます。
