原価計算表とは、製品1個あたりの製造原価を「材料費」「外注加工費」「加工費(人と機械)」「間接費」に分けて積み上げ、見積単価や利益を判断するための一枚の表です。
製造業の原価計算表は、材料の単価に使用量を掛けるだけでは完成しません。
歩留まり(投入した材料のうち製品になる割合)、段取り替えの時間、人と機械それぞれの賃率(1時間あたりの費用)を入れてはじめて、現場の実態に近い数字になります。
この記事では、中小製造業の経営者・現場責任者の方に向けて、製品1個あたりの原価を出すエクセルの設計を、計算式と具体例つきで解説します。
読み終えたあとには、自社の数字を入れて製品別の原価計算表を組み立てられる状態を目指します。
「ネットで探したエクセルの原価計算表は、飲食店のメニュー向けばかりで、うちの工程には合わない」「見積りはベテランの勘で出していて、本当に利益が残っているのか分からない」「前に作った表は、単価を更新できずに使われなくなった」。
こうした声は、原価計算に取り組み始めた中小製造業から非常によく聞かれます。
原因の多くは、表の作り方そのものではなく、製造業に必要な項目が入っていない、あるいは更新できない構造になっていることにあります。
そこで本記事では、はじめに製造業ならではの項目を整理し、次にエクセルの設計手順、最後に計算例と運用のコツを順に説明します。
原価計算表とは何か|製造業の表が飲食・小売型と違う点
まず、原価計算表の役割と、一般的なテンプレートとの違いを短く確認します。
ここを押さえておくと、このあとの項目設計が理解しやすくなります。
原価計算表で分かること
原価計算表を作ると、製品ごとの製造原価、見積単価に対する利益、そしてどの費用が原価を押し上げているかが分かります。
たとえば「売上は大きいのに、手元に利益が残らない製品」は、原価計算表を作るまで気づけないことが少なくありません。
製造業の利益は、次の式で考えるのが基本です。
利益 = 見積単価 − 製造原価 − 販管費(販売費及び一般管理費)
この式の「製造原価」を、製品1個単位で正確に出すための道具が原価計算表です。
飲食店・小売向けテンプレートとの違い
検索で見つかる原価計算表の多くは、飲食店のメニューや小売の仕入れを想定しており、「材料の単価 × 使用量」で完結します。
製造業では、これに加えて人と機械の時間が原価の大きな部分を占めます。
| 項目 | 飲食・小売型の表 | 製造業型の表 |
|---|---|---|
| 原価の中心 | 材料費(食材・仕入商品) | 材料費に加えて、人と機械の加工費 |
| 材料のロス | 「見上がり」で調整する程度 | 歩留まり(端材・不良を含む)を計算式に入れる |
| 時間の扱い | ほぼ入れない | 工程ごとの作業時間と賃率を入れる |
| 段取り替え | なし | ロットで按分して1個あたりに乗せる |
| 間接費 | 店舗全体で管理 | 配賦率を決めて製品へ加算する |
つまり、製造業の表では「時間」と「ロス」を数字にすることが最大のポイントになります。
「勘と経験」の見積りから卒業する意味
多くの現場では、ベテランの勘と経験で個別の原価を出しています。
勘は決して悪いものではありませんが、材料費や人件費が上がる局面では、勘のまま据え置いた単価が利益を削ってしまいます。
原価計算表は、勘を否定するものではなく、勘を数字で検証するためのものです。
見積りを数字の裏づけつきで説明できれば、価格交渉でも「なぜこの単価か」を落ち着いて伝えられます。
原価計算表に入れる項目と計算式|製造原価の5区分
次に、表に入れる項目を整理します。
項目を先に決めておくと、エクセルを作る段階で迷いません。
製造原価を構成する5つの区分
製造原価は、大きく5つに分けて考えると整理しやすくなります。
それぞれの計算式とデータの出どころを、次の表にまとめました。
| 区分 | 中身 | 計算式 | データの出どころ |
|---|---|---|---|
| ① 材料費 | 鋼材、樹脂、部品など | 投入量 × 材料単価 | 購買の仕入単価、図面の正味重量 |
| ② 外注加工費 | メッキ、熱処理などの外注 | 外注単価 × 個数 | 外注先の見積書、発注書 |
| ③ 直接加工費(人) | 作業者の人件費 | 作業時間 × 人の賃率 | 標準時間、日報、賃金台帳 |
| ④ 直接加工費(機械) | 設備の減価償却・光熱費など | 機械稼働時間 × 機械の賃率 | 設備台帳、電気代の請求書 |
| ⑤ 間接費 | 消耗品、工場の共通費用など | 直接加工費 × 配賦率 | 決算書、製造原価報告書 |
なお、③と④の賃率は、アワーレート(1時間あたりの人件費や設備費)として別シートで管理するのが定石です。
アワーレートの算出方法は、別の記事で詳しく説明しています。
歩留まりを材料費に反映する方法
歩留まりとは、投入した材料のうち、製品として使える割合のことです。
切削で削り落とす端材や、不良品になる分が含まれます。
表に正味の使用量だけを入れると、材料費が実際より安く出てしまいます。
次の式で「投入量」に直してから単価を掛けてください。
投入量 = 正味使用量 ÷ 歩留まり
材料費 = 投入量 × 材料単価
たとえば、1個あたり正味0.50kgの鋼材で歩留まりが80%なら、投入量は0.50 ÷ 0.80 = 0.625kgです。
単価が400円/kgであれば、材料費は250円になります。
なお、端材を売却できる場合は、その売却額を差し引く方法もありますが、最初は差し引かずに、実績が安定してから加えるほうが管理しやすくなります。
段取り替え費をロットで按分する方法
段取り替えとは、品種を切り替える際に治具や刃物、プログラムを準備し直す作業です。
この時間は、製品を作っていなくても人と機械を拘束します。
段取りの費用は、1回ごとにかかる固定的な費用なので、ロット(1回に作る数量)で割って1個あたりに乗せます。
段取り費(1個あたり)= 段取り時間 ×(人の賃率 + 機械の賃率)÷ ロット数量
ロットが小さくなるほど1個あたりの段取り費は膨らみます。
多品種少量生産の工場で「小ロットの案件ほど利益が薄い」のは、この構造が原因です。
エクセルで原価計算表を作る5ステップ
項目が決まったら、いよいよエクセルで形にします。
ここでは、更新しやすさを最優先にした3シート構成を紹介します。
3シート構成にする理由
原価計算表を1枚のシートに全部書くと、単価が変わるたびに数式を直す羽目になり、更新が止まります。
「マスタ」「計算表」「集計」の3つに分けると、単価の更新は1か所で済みます。
| シート名 | 入れるもの | 更新のタイミング |
|---|---|---|
| ① マスタ | 材料単価、人と機械の賃率、外注単価、配賦率 | 単価改定のたび(最低でも年1回) |
| ② 製品別計算表 | 製品ごとの使用量、歩留まり、時間、ロット | 新製品・設計変更のとき |
| ③ 集計 | 製品別の製造原価と利益率の一覧 | 見積りや月次の振り返りのとき |
マスタの数字を黄色、計算表の入力欄を青字、自動計算の欄を黒字、というように色で役割を分けておくと、担当者が替わっても迷いません。
5ステップの進め方
- 対象製品を絞る:売上上位10製品など、まずは少数から始める
- マスタを作る:材料単価、人と機械の賃率、外注単価、配賦率を1か所に集める
- 製品ごとに入力する:正味使用量、歩留まり、工程ごとの時間、ロット数量を入れる
- 数式を組む:投入量、材料費、加工費、段取り費、間接費、合計を計算する
- 見積単価と比べる:見積単価から製造原価と販管費を引き、利益を確認する
最初から全製品を入れようとすると挫折します。
まずは主力の数製品で形にし、動かしながら広げるのが現実的です。
ひな形を使うときの注意点
自社でゼロから組むのが難しい場合は、ひな形を活用するのも一つの方法です。
当サイトでは、材料単価マスタから製品別の計算までをつないだ製造業向けのエクセルを無料で配布しています。
ひな形を使う場合も、そのまま入力するのではなく、自社の工程や費目に合わせて列を足し引きしてください。
表を自社の現場に合わせて育てる意識が、続けるためのコツです。
エクセルでの原価管理の全体像から確認したい場合は、次の記事も参考になります。
計算例|製品Aの1個あたり原価と利益を出してみる
ここまでの内容を、仮の数字で一通り計算してみます。
数字は説明用の例ですので、自社の数値に置き換えて使ってください。
前提条件を整理する
金属部品の製品Aを、ロット300個で加工する想定です。
材料は鋼材で、切削加工のあと外注でメッキをかけ、最後に検査・組立を行います。
| 項目 | 設定値 |
|---|---|
| 材料単価・正味使用量・歩留まり | 400円/kg、0.50kg/個、歩留まり80% |
| 外注加工費(メッキ) | 40円/個 |
| 人の賃率・機械の賃率 | 4,200円/時、3,000円/時 |
| 切削の作業時間 | 人 0.10時間/個、機械 0.10時間/個 |
| 検査・組立の作業時間 | 人 0.033時間/個(約2分) |
| 段取り時間・ロット数量 | 0.75時間(45分)、300個 |
| 間接費の配賦率 | 直接加工費の10% |
| 見積単価・販管費率 | 1,600円、見積単価の15% |
製品Aの製造原価を積み上げる
前提条件をもとに、5つの区分と段取り費を順に計算します。
| 区分 | 計算 | 1個あたり金額 |
|---|---|---|
| 材料費 | 0.50 ÷ 0.80 × 400円 | 250円 |
| 外注加工費 | メッキ | 40円 |
| 加工費(人・切削) | 0.10時間 × 4,200円 | 420円 |
| 加工費(機械・切削) | 0.10時間 × 3,000円 | 300円 |
| 段取り費 | 0.75時間 ×(4,200+3,000円)÷ 300個 | 18円 |
| 加工費(人・検査組立) | 約0.033時間 × 4,200円 | 140円 |
| 間接費 | 直接加工費860円 × 10% | 86円 |
| 製造原価 合計 | 1,254円 |
直接加工費の860円は、切削の人と機械、検査・組立の人を合計した金額です(420円+300円+140円)。
見積単価と利益を確認する
見積単価1,600円から、製造原価1,254円と販管費240円(1,600円の15%)を引くと、利益は106円、利益率は約6.6%と分かります。
ここで大切なのは、利益が出ているかどうかだけでなく、「何が変わると利益が消えるか」を確認することです。
次の表は、歩留まりとロットが悪化した場合の試算です。
| ケース | 製造原価 | 利益(1個) | 利益率 |
|---|---|---|---|
| 基準(歩留まり80%・ロット300個) | 1,254円 | 106円 | 約6.6% |
| 歩留まりが70%に低下 | 約1,290円 | 約70円 | 約4.4% |
| ロットが100個に縮小 | 1,290円 | 70円 | 約4.4% |
| 両方が同時に起きた場合 | 約1,326円 | 約34円 | 約2.1% |
歩留まりが10ポイント下がるだけで、利益はおよそ3分の2に減ります。
小ロット化と重なれば、利益はほとんど残りません。
このように、原価計算表は「今の原価」を知るだけでなく、条件が変わったときの影響を見積もる道具としても役立ちます。
見積りの組み立て方は、次の記事でも詳しく解説しています。
運用で失敗しないための注意点|更新ルールとよくある失敗
表は作って終わりではなく、更新しながら使い続けてはじめて価値が出ます。
最後に、運用のコツとつまずきやすい点を整理します。
単価と賃率の更新ルールを決める
材料単価、賃率、外注単価は、時間が経つほど実態とずれていきます。
更新の担当者と時期を、あらかじめ決めておいてください。
- 材料単価:仕入単価が変わったタイミング、または四半期ごとに更新する
- 賃率:賃上げや設備投資のあと、少なくとも年1回は見直す
- 外注単価:外注先から値上げの申し出があったとき、すぐに更新する
賃率を計算するときの注意として、補助人員(運搬や管理を担う人)の人件費は、費用の分子には入れても、作業時間の分母には入れません。
補助人員は直接作業をしていないため、その分の費用は賃率に上乗せされる形になります。
よくある失敗3つ
原価計算表の運用で多い失敗は、次の3つです。
- 単価を計算表に直接打ち込んでしまい、改定のたびに数式を探す羽目になる
- 計算上の標準的な数字だけで運用し、実際の作業時間や歩留まりと突き合わせない
- 赤字の製品が見つかっても、見積りや取引条件の見直しにつなげない
特に2つ目が重要です。
標準時間は、作業時間に余裕時間(工具交換や手待ち、疲労など)を加えて決めます。
実績と標準を突き合わせることで、改善の余地が見えてきます。
エクセルの限界と、次に取り組むこと
製品数が増えると、エクセルでは入力ミスや属人化が起こりやすくなります。
ただし、最初からシステムを導入する必要はなく、まずはエクセルで運用を定着させることが先です。
表が動き始めたら、予定の原価と実績のズレを分析する段階に進みます。
また、直接加工費すら回収できていない製品は、価格の見直しや取引条件の再検討の対象になります。
原価計算表は、作る作業そのものより、自社の工程に合わせた項目設計と、更新を続ける仕組みづくりに時間がかかります。
自社で進めるのが難しい場合は、専門家に伴走してもらう選択肢もあります。
まとめ|原価計算表は「時間」と「ロス」を数字にすることから始まる
原価計算表を製造業で使える道具にするには、材料費だけでなく、歩留まり、段取り、人と機械の賃率を入れることが欠かせません。
最後に、要点と次の一歩を整理します。
この記事のポイント
- 製造原価は、材料費・外注加工費・加工費(人と機械)・間接費の5区分で積み上げる
- 歩留まりは「正味使用量 ÷ 歩留まり」で投入量に直してから単価を掛ける
- 段取り費は、段取り時間に賃率を掛けてロットで割り、1個あたりに乗せる
- エクセルは「マスタ」「製品別計算表」「集計」の3シートに分けて、更新を1か所に集約する
今週中にできる最初の一歩
まずは売上上位の製品を1つ選び、材料の使用量と歩留まり、工程ごとの作業時間、直近のロット数量を現場で確認してみてください。
この3つの数字がそろえば、本記事の計算例と同じ形で、製品1個あたりの原価を出せます。
数字を入れてみて、利益が想定より薄い製品が見つかったとしても、それは悪いニュースではありません。
見積りや取引条件を見直すための、はじめての根拠になります。
自社の数字で迷ったときは
賃率の決め方や、間接費の配賦、歩留まりの置き方などは、業種や工程によって考え方が変わります。
自社の場合にどう置けばよいか迷ったときは、無料相談もご活用ください。
問い合わせ
当サイトでは、中小製造業を対象に、
経営数値の整理、原価計算の考え方、利益構造の見直し、現場と経営の接続といった観点から、個別の状況に即した整理と助言を行っています。
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課題が明確でなくても構いません。
現状の違和感や悩みを言語化するところから対応していますので、問い合わせページよりご連絡ください。
筆者紹介

吉岡翼(中小企業診断士)
付加価値創造ラボ主宰
中央大学法学部卒。独立系コンサルティングファームにて東証プライム上場企業から中小製造業の経営支援に従事。
独立後は、「人と企業の理想を、現実に変える力に」を理念に価格転嫁や生産性向上の支援に注力している。

