製造業の労務費率とは、売上高や製造原価、付加価値といった「分母」に対して、労務費(製造に携わる人の給与・賞与・法定福利費など)がどれだけの割合を占めているかを示す指標です。

経済産業省・総務省の「2025年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」(令和8年(2026年)7月29日公表、2024年実績)によると、製造業全体の人件費は製造品出荷額等の10.0%、従業者1~9人の事業所では15.5%となっています。

ただし、この数字を自社の決算書とそのまま比べると、判断を誤ることがあります。

統計の「人件費率」と、原価計算でいう「製造原価に占める労務費の割合」、経営分析でいう「労働分配率」は、分母がまったく違うからです。

本記事では、3つの労務費率の違いを整理したうえで、業種別・従業者規模別の最新の目安を一次統計から示し、架空の金属加工会社の数値を使って、自社の数字を持ち込んで「高いのか・低いのか・次に何をすべきか」を判断する手順を解説します。

目次 [ close ]
  1. 「うちの労務費は多すぎるのか」現場でよく聞く3つの悩み
    1. 同業他社と比べて人件費が多すぎるのか分からない
    2. 賃上げしたいが、どこまで上げられるのか判断できない
    3. 見積りの労務費が実態と合っているか自信がない
  2. 労務費率とは?分母が違う3つの指標を整理する
    1. 労務費と人件費の違い
    2. 製造業で使う3つの労務費率
    3. 建設業の「労務費率(労災保険)」とは別物
  3. 製造業の労務費率の目安|統計で見る業種別・規模別の平均
    1. 製造業全体と従業者規模別の目安
    2. 業種別の目安
    3. 統計と自社を比べるときの3つの注意点
  4. 自社の労務費率を計算する手順|架空A社の数値例
    1. 手順1:決算書から6つの数字を拾う
    2. 手順2:3つの率と1人当たりの数字を計算する
    3. 手順3:「高い・低い」の原因を切り分ける
  5. 労務費率を見積り・価格転嫁・賃上げ判断に活かす
    1. 賃上げが原価をどれだけ押し上げるかを試算する
    2. 見積りの労務費を「率」でチェックする
    3. 賃上げの余力を労働分配率から逆算する
  6. 労務費率の管理でよくある失敗と対策
    1. 失敗1:率を下げるために人を減らしてしまう
    2. 失敗2:労務費に含める範囲が年によって変わる
    3. 失敗3:全社平均だけを見て製品別の差を見ない
  7. まとめ|労務費率は「比べて、分解して、次の一手を決める」ための数字
    1. この記事のポイント
    2. まず今月取り組みたい3つのこと

「うちの労務費は多すぎるのか」現場でよく聞く3つの悩み

労務費率を調べる経営者や工場長の多くは、用語の意味よりも「自社の数字をどう評価すればよいか」に悩んでいます。

まずは、ご相談の場でよく耳にする3つの声を整理します。

同業他社と比べて人件費が多すぎるのか分からない

「売上に対して人件費が2割を超えているが、これは多いのか、普通なのか」という質問は、最もよくいただくものです。

ところが、ネット上の「製造業の人件費率は〇%」という数字は、出典も計算式もばらばらで、比べる物差しとして使えないことが少なくありません。

物差しが曖昧なまま「多い」と判断すると、必要な人員まで削るという誤った打ち手につながります。

賃上げしたいが、どこまで上げられるのか判断できない

人手不足のなかで採用と定着を考えると、賃上げは避けて通れません。

一方で「4%上げたら利益がいくら減るのか」「そのぶん価格にいくら反映すべきか」を数字で説明できる会社は多くありません。

労務費率を正しく押さえておくと、賃上げが原価をどれだけ押し上げるかを、電卓ひとつで試算できるようになります。

見積りの労務費が実態と合っているか自信がない

見積りでは「アワーレート×加工時間」で労務費を積み上げているものの、決算を締めてみると想定より利益が残らないというケースもよくあります。

見積り上の労務費率と、実績の労務費率を並べてみると、どこで差が生まれているのかが見えてきます。

この3つの悩みは、いずれも「どの労務費率を、何と比べるか」を決めることで解決の糸口が見えてきます。

労務費率とは?分母が違う3つの指標を整理する

ここでは、労務費率の基本を簡潔に整理します。

ポイントは、労務費と人件費の範囲の違いと、分母によって意味が変わる3つの指標を区別することです。

労務費と人件費の違い

労務費とは、製造原価のうち、製造に携わる人に対して発生する費用のことです。

一方、人件費は、製造部門に加えて営業・総務などの販売費及び一般管理費(販管費)に含まれる給与や役員報酬まで含めた、会社全体の人に関する費用を指します。

  • 労務費(製造原価報告書に計上):製造現場の賃金・賞与・諸手当、製造部門の法定福利費(社会保険料の会社負担分)、退職給付費用など
  • 人件費(全社):上記の労務費+販管費の役員報酬・給料手当・賞与・法定福利費・福利厚生費など
  • 含めるか迷いやすいもの:派遣社員への支払い、外注加工費、役員が現場作業をしている場合の役員報酬

決算書では、労務費は「製造原価報告書」に、販管費の人件費は「損益計算書」の販管費内訳に記載されています。

製造業で使う3つの労務費率

労務費率には、分母の違いによって大きく3つの見方があります。

どれが正しいということではなく、目的に応じて使い分けることが大切です。

指標計算式分かること主な使い道
売上高労務費率(人件費率)労務費(または人件費)÷売上高×100売上に対して人にどれだけ使っているか同業・同規模との比較
製造原価労務費率労務費÷製造原価×100原価の中で人の比重がどれだけ高いか賃上げ・価格転嫁の影響試算、見積りの検証
労働分配率人件費÷付加価値×100稼いだ付加価値のうち人に回した割合賃上げ余力の判断、生産性の診断

統計で公表されている業種別の目安は、主に1つ目(売上高や出荷額に対する割合)と3つ目(労働分配率)です。

2つ目の製造原価労務費率は、統計との比較よりも、自社の推移を追ったり、賃上げの影響を試算したりする用途に向いています。

建設業の「労務費率(労災保険)」とは別物

「労務費率」で検索すると、厚生労働省が定める労災保険の労務費率が多く表示されます。

これは、主に建設事業で賃金総額を正確に把握しにくい場合に、請負金額に一定の率を掛けて賃金総額を算定し、労災保険料を計算するための率です。

製造業の原価管理や経営分析でいう労務費率とは目的も計算方法も異なるため、混同しないよう注意してください。

製造業の労務費率の目安|統計で見る業種別・規模別の平均

ここからは、自社と比べるための物差しを、一次統計から確認します。

使用するのは、経済産業省・総務省の「2025年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」の産業別統計表(令和8年(2026年)7月29日公表、2024年1~12月の実績)です。

以下の人件費率は、同調査の「事業に従事する者の人件費及び派遣受入者に係る人材派遣会社への支払額」を「製造品出荷額等」で割って算出しています。

製造業全体と従業者規模別の目安

まずは、従業者規模別の数字です。

従業者規模人件費率(対出荷額)労働分配率1人当たり人件費1人当たり付加価値
製造業計10.0%32.5%501万円1,540万円
1~9人15.5%36.1%329万円913万円
10~19人15.4%39.4%372万円944万円
20~29人14.5%38.5%391万円1,016万円
30~49人13.5%39.8%419万円1,052万円
50~99人12.3%37.7%443万円1,175万円
100~199人11.0%33.3%475万円1,428万円
200~299人9.7%30.3%513万円1,693万円
300~499人8.6%29.1%532万円1,825万円
500~999人9.5%33.5%588万円1,757万円
1,000人以上7.3%27.5%733万円2,671万円

出典:経済産業省・総務省「2025年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」産業別統計表 第4表をもとに筆者算出。

付加価値は従業者29人以下の事業所では粗付加価値額(減価償却費を差し引く前の金額)です。

表から読み取れるのは、規模が小さいほど人件費率は高いのに、1人当たり人件費はむしろ低いという構造です。

つまり、小規模事業所の人件費率が高いのは「給料を払いすぎている」からではなく、「1人当たりの付加価値(稼ぐ力)が小さい」ことが主な原因だと考えられます。

従業者1~9人の1人当たり付加価値913万円は、1,000人以上の事業所の約3分の1にとどまります。

業種別の目安

次に、主な業種(産業中分類)別の数字です。

業種人件費率(対出荷額)原材料・燃料・電力等の比率労働分配率
製造業計10.0%64.5%32.5%
食料品製造業10.7%63.1%32.9%
繊維工業17.6%55.9%45.4%
印刷・同関連業20.5%50.0%47.1%
化学工業7.0%57.6%18.9%
プラスチック製品製造業13.8%58.0%38.2%
ゴム製品製造業14.1%58.2%37.8%
窯業・土石製品製造業13.3%52.9%32.4%
鉄鋼業5.9%79.8%36.5%
非鉄金属製造業5.4%77.2%25.3%
金属製品製造業15.5%57.0%41.3%
はん用機械器具製造業14.0%60.3%38.8%
生産用機械器具製造業14.1%60.3%37.6%
業務用機械器具製造業14.5%57.9%38.7%
電子部品・デバイス・電子回路製造業12.8%52.1%31.4%
電気機械器具製造業12.5%61.8%36.6%
輸送用機械器具製造業8.0%71.7%29.2%

出典:同調査 産業別統計表 第4表(全規模計)をもとに筆者算出。

人件費率は、材料費の比重が高い鉄鋼業・非鉄金属では5~6%台、加工の手間が中心となる印刷・繊維・金属製品では15~20%台と、業種によって3倍以上の開きがあります。

「材料費率が高い業種ほど人件費率は低く見える」という関係があるため、比較するときは必ず自社と同じ業種の数字を使ってください。

統計と自社を比べるときの3つの注意点

統計の数字は便利な物差しですが、定義を合わせずに比べると判断を誤ります。

とくに次の3点に注意してください。

  • 分母は「売上高」ではなく「製造品出荷額等」:工場から出荷した製品の金額や加工賃収入などで、商社的な転売の売上が多い会社は自社の売上高と一致しません。
  • 工場(事業所)単位の数字である:本社の営業・管理部門の人件費は含まれていない場合があります。比べるなら、自社も製造部門の労務費を中心に使うほうが近くなります。
  • 人件費の範囲:統計の人件費は、給与・賞与・諸手当、退職金、派遣受入者に係る支払額などの合計です。自社で計算するときは、法定福利費を含めるかどうかも含め、毎年同じルールで集計することが大切です。

細かな定義の違いがあるため、統計との差が1~2ポイント程度であれば「ほぼ同水準」と捉え、差が大きい場合に原因を掘り下げるという使い方が現実的です。

自社の労務費率を計算する手順|架空A社の数値例

目安が分かったところで、次は自社の数字を当てはめてみましょう。

ここでは、従業員25人の金属製品製造業(架空A社)を例に、決算書から労務費率を計算し、統計と比べて原因を切り分けるまでの流れを3つの手順で解説します。

手順1:決算書から6つの数字を拾う

まずは、直近の決算書(損益計算書・製造原価報告書)から、次の数字を拾います。

項目どこから拾うかA社の数字
売上高損益計算書50,000万円
製造原価製造原価報告書の当期製品製造原価41,000万円
労務費(製造部門)製造原価報告書の労務費合計8,000万円
販管費の人件費販管費内訳の役員報酬・給料手当・賞与・法定福利費など2,500万円
外部購入価値材料費・外注加工費・購入した電力や消耗品などの合計30,000万円
従業員数期中平均の人数(パート・派遣は労働時間で換算)25人

全社の人件費は、製造部門の労務費8,000万円と販管費の人件費2,500万円を足した10,500万円です。

付加価値は、売上高50,000万円から外部購入価値30,000万円を差し引いた20,000万円となります。

外部購入価値とは、材料費や外注加工費、購入部品費など、社外から買ってきたものの金額です。

エクセルで材料費・労務費・製造間接費を整理しながら計算したい方は、製造業向けエクセル原価計算テンプレート(無料ダウンロード)をご活用ください。

手順2:3つの率と1人当たりの数字を計算する

拾った数字を使って、3つの労務費率と、原因の切り分けに使う1人当たりの数字を計算します。

指標計算A社の結果比較の目安(統計)
売上高労務費率8,000÷50,000×10016.0%金属製品15.5%/20~29人14.5%
製造原価労務費率8,000÷41,000×10019.5%統計なし(自社の推移で見る)
労働分配率10,500÷20,000×10052.5%金属製品41.3%/20~29人38.5%
1人当たり人件費10,500÷25420万円20~29人391万円
1人当たり付加価値20,000÷25800万円20~29人1,016万円

売上高労務費率だけを見ると、A社の16.0%は金属製品製造業の15.5%とほぼ同水準で、「特に問題なし」と判断してしまいそうです。

ところが、労働分配率で見ると52.5%と、統計の目安より10ポイント以上高くなっています。

同じ会社でも、どの率で比べるかによって結論が変わることが分かります。

手順3:「高い・低い」の原因を切り分ける

労働分配率が高いとき、原因は「1人当たり人件費が高い」か「1人当たり付加価値が低い」かのどちらか、または両方です。

労働分配率は、次の式に分解できます。

分解式A社20~29人の統計
労働分配率=1人当たり人件費÷1人当たり付加価値420万円÷800万円=52.5%391万円÷1,016万円=38.5%
統計との比較人件費は約1.07倍付加価値は約0.79倍

A社の1人当たり人件費は統計の約1.07倍で、賃金水準はやや高い程度です。

一方、1人当たり付加価値は統計の約8割にとどまっています。

つまり、A社の課題は「給料が高すぎること」ではなく、「1人当たりの稼ぐ力が弱いこと」にあります。

この場合に打つべき手は人員削減ではなく、価格の見直しや、1時間当たりに生み出す付加価値を高める段取り・工程の改善です。

付加価値と粗付加価値の違いや計算方法は、粗付加価値とは?純付加価値との違いと、中小製造業の生産性・賃上げ原資への活かし方で詳しく解説しています。

労務費率を見積り・価格転嫁・賃上げ判断に活かす

労務費率は、計算して統計と比べるだけでは意味がありません。

ここでは、自社の数字を使って「次の一手」を決めるための3つの使い方を紹介します。

賃上げが原価をどれだけ押し上げるかを試算する

製造原価労務費率が分かると、賃上げが原価に与える影響を簡単に試算できます。

考え方はシンプルで、「製造原価の上昇率≒製造原価労務費率×賃上げ率」です。

賃上げ率労務費の増加額(年)製造原価の上昇率
3%8,000万円×3%=240万円240÷41,000=約0.59%
4%8,000万円×4%=320万円320÷41,000=約0.78%
5%8,000万円×5%=400万円400÷41,000=約0.98%

A社が製造部門で4%の賃上げを行うと、製造原価は約0.78%上昇します。

利益を減らさないためには、少なくともこの上昇分を販売価格に反映する必要があります。

内閣官房と公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(令和7年(2025年)12月26日改正、令和8年(2026年)1月1日施行)では、受注者が労務費の上昇分を価格交渉する際の根拠として、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額・上昇率といった公表資料を用いることが示されています。

中小企業庁の「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」(令和8年(2026年)6月26日公表)では、労務費の転嫁率は50.0%にとどまっており、上昇分の半分程度しか価格に反映できていないのが実情です。

自社の労務費率を使って影響額を示せば、「なぜこの金額なのか」を取引先に説明しやすくなります。

労務費の上昇分を価格に反映する具体的な算出方法と交渉の進め方は、労務費の価格転嫁の進め方|転嫁額を算出する3つの方法と交渉5ステップで解説しています。

見積りの労務費を「率」でチェックする

見積りでは、労務費を「アワーレート×加工時間」で積み上げるのが基本です。

このとき、受注した案件の見積書の労務費を見積金額で割った「見積り上の労務費率」と、決算で出た「実績の労務費率」を並べて比べてみてください。

見積り上の労務費率が実績より明らかに低い場合、加工時間を短く見積もっているか、アワーレートが賃上げ前の古い数字のままになっている可能性があります。

アワーレートを計算するときの実務上の注意点として、段取りや運搬を担う補助人員の人件費は、アワーレートの分子(人件費)には含めますが、分母(直接作業時間)には含めないのが基本です。

また、作業者ごとの賃金差は個別に追いかけるより、職場や工程単位の平均で設定するほうが運用が続きます。

人と機械のアワーレートの計算方法は、アワーレートとは?製造業の人件費・設備費から見積り単価を導く計算方法で手順を解説しています。

賃上げの余力を労働分配率から逆算する

労働分配率を使うと、「賃上げをするには、付加価値をいくら増やす必要があるか」を逆算できます。

計算式は「必要な付加価値=人件費÷目標とする労働分配率」です。

ケース人件費目標の労働分配率必要な付加価値(増加額)
現状10,500万円52.5%20,000万円(-)
4%賃上げ・分配率を維持10,920万円52.5%20,800万円(+800万円)
4%賃上げ・分配率を45%へ改善10,920万円45.0%約24,267万円(+約4,267万円)

全社で4%の賃上げを行い、労働分配率を現状の52.5%に保つだけでも、付加価値を年800万円増やす必要があります。

さらに、設備投資や借入返済の余力を確保するために分配率を45%まで下げたいなら、約4,267万円の付加価値の上積みが必要です。

この金額を、価格改定でいくら、工程改善による時間短縮でいくら賄うかを分けて考えると、賃上げの計画が現実的なものになります。

労務費率の管理でよくある失敗と対策

労務費率は分かりやすい指標である反面、使い方を誤ると経営判断を狂わせます。

ここでは、中小製造業で特によく見られる3つの失敗と、その対策を紹介します。

失敗1:率を下げるために人を減らしてしまう

労務費率が高いと分かると、真っ先に人員削減や残業カットを考えがちです。

しかし、A社の例で見たとおり、率が高い原因の多くは分母である付加価値が小さいことにあります。

人を減らせば一時的に率は下がりますが、受注をこなせなくなったり、残った人に負担が集中して離職が増えたりすると、かえって付加価値が減ってしまいます。

採用が難しい今の環境では、人を減らすより、1人当たりの付加価値を高める方向で打ち手を考えるのが基本です。

失敗2:労務費に含める範囲が年によって変わる

ある年は派遣社員の費用を労務費に含め、翌年は外注費に計上するといったように、集計の範囲が変わると、率の推移を正しく追えません。

次のような項目について、社内で集計ルールを決めて固定しておきましょう。

  • 法定福利費(社会保険料の会社負担分)を労務費に含めるか
  • 派遣社員・請負スタッフへの支払いを労務費として扱うか、外注費として扱うか
  • 現場作業も担う役員の報酬を、製造部門と管理部門でどう按分するか
  • 工場の事務・品質保証など間接部門の人件費を製造部門に含めるか

ルールを変える場合は、過去数年分も同じルールで計算し直してから比較するようにしてください。

失敗3:全社平均だけを見て製品別の差を見ない

全社の労務費率が目安どおりでも、製品別に見ると、手間のかかる製品だけ労務費率が極端に高いことがあります。

主要製品ごとに「その製品の労務費÷販売価格」を計算してみると、価格に対して人の手間がかかりすぎている製品が浮かび上がります。

そうした製品は、価格改定を優先的に検討すべき候補であり、同時に工程改善で時間を短縮できる余地が大きい製品でもあります。

製品別の採算を見るときは、労務費率とあわせて、売上から変動費を引いた限界利益も確認すると、値上げの優先順位をつけやすくなります。

見積りに含める費用の範囲と、見積金額を組み立てる手順は、見積原価の出し方|含める費用の範囲と見積金額を組み立てる4ステップもあわせてご覧ください。

ここまでの計算を自社のエクセルや会計データで運用できそうであれば、まずは直近3期分の労務費率を並べるところから始めてみてください。

一方で、製造原価報告書の労務費の集計ルールが定まっていない、製品別の労務費がつかめないという段階では、自社だけで進めるのが難しい場合もあります。

自社で進めるのが難しい場合は、専門家に伴走してもらう選択肢もあります。

決算書と製造実績から労務費やアワーレートを整理し、製品別採算を社内で見られる仕組みづくりを支援する原価管理体制の構築支援の内容はこちらです。

まとめ|労務費率は「比べて、分解して、次の一手を決める」ための数字

最後に、この記事のポイントと、読み終えたあとにすぐ取り組めることを整理します。

この記事のポイント

  • 労務費率には、売上高労務費率・製造原価労務費率・労働分配率の3つがあり、分母によって意味が変わる
  • 2025年経済構造実態調査では、製造業全体の人件費率(対出荷額)は10.0%、従業者1~9人の事業所では15.5%
  • 業種によって人件費率は5%台から20%台まで開きがあるため、比べるときは必ず同業種・同規模の数字を使う
  • 率が高いときは「1人当たり人件費」と「1人当たり付加価値」に分解し、原因が賃金側か稼ぐ力側かを見極める
  • 製造原価労務費率×賃上げ率で、賃上げが原価に与える影響を試算し、価格転嫁の根拠にできる

まず今月取り組みたい3つのこと

  • 直近3期分の決算書から、売上高労務費率・製造原価労務費率・労働分配率を計算して並べる
  • 自社の業種・従業者規模に近い統計の数字と比べ、差が大きい指標を1つ選ぶ
  • 主要製品5つ程度について、労務費÷販売価格を計算し、価格改定や工程改善の優先順位をつける

労務費率は、単に「高い・低い」を判定するための数字ではありません。

同業と比べ、1人当たりの数字に分解し、賃上げや価格改定の計画に落とし込むことで、はじめて経営の判断材料になります。

まずは自社の数字を一度計算し、統計の目安と並べるところから始めてみてください。

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筆者紹介

吉岡翼(中小企業診断士) 
付加価値創造ラボ主宰

中央大学法学部卒。独立系コンサルティングファームにて東証プライム上場企業から中小製造業の経営支援に従事。
独立後は、「人と企業の理想を、現実に変える力に」を理念に価格転嫁や生産性向上の支援に注力している。