「うちは工場の経費を、全部まとめて売上の比率で割り振っています」。

中小製造業の原価表を見せていただくと、この形をよく目にします。

製造間接費の配賦とは、特定の製品に直接ひも付けられない費用を、一定の基準にしたがって各製品へ割り振る手続きのことです。

工場の電気代、設備の減価償却費、現場管理者の給与、消耗工具費などが対象になります。

ここで押さえておきたいのは、配賦をどう変えても、会社全体の利益は1円も変わらないという事実です。

変わるのは、どの製品が儲かっていて、どの製品が赤字なのかという判断材料のほうです。

そして配賦基準の選び方ひとつで、製品別の粗利率は簡単に逆転します。

本記事では、製造間接費の配賦基準をどう選ぶか、配賦率をどう計算するか、実際配賦と予定配賦のどちらを採るかまでを、金属部品加工業を営む架空のA社の数字を使って解説します。

「全部まとめて割り振る」が製品別の採算を隠す

まず、配賦をいい加減に扱うと経営判断に何が起きるのかを確認します。

ここが腑に落ちないと、以降の計算は単なる事務作業になってしまいます。

現場でよく見る一括配賦の風景

中小製造業でもっとも多いのは、製造間接費の総額を売上高の比率で各製品に割り振る方法です。

売上の大きい製品に多くの間接費が乗り、売上の小さい製品には少ししか乗りません。

計算は一瞬で終わりますし、エクセルの関数ひとつで完結します。

しかしこの方法には、決定的な弱点があります。

売上高は、その製品が工場の設備や人手をどれだけ使ったかとは無関係だからです。

単価の高い製品が、必ずしも手間のかかる製品とは限りません。

むしろ中小製造業では、単価は安いのに段取りが多く、機械を長時間占有する製品のほうが利益を圧迫していることが珍しくありません。

配賦を間違えると何が起きるか

配賦の歪みは、経営判断の歪みとしてそのまま表に出てきます。

典型的なのは、赤字製品を優良製品と誤認したまま受注を増やしてしまうケースです。

売れば売るほど工場は忙しくなるのに、決算を締めると利益が減っているという状態が生まれます。

逆のパターンも起こります。

本当は利益率の高い製品が、過大な間接費を背負わされて低採算に見え、値上げ交渉や撤退の対象になってしまうことがあります。

この現象は管理会計の分野で内部相互補助と呼ばれ、ある製品の原価が別の製品の原価を肩代わりしている状態を指します。

配賦基準の見直しは、新しい設備を買うことなく、この誤認を取り除く作業です。

配賦が会社の利益を増やすわけではない

ここで一度、期待値を正しく置いておきます。

配賦をどれだけ精緻にしても、その月に会社が稼いだ利益の総額は変わりません。

間接費600万円を製品Xに多く振ろうと製品Yに多く振ろうと、合計は600万円のままだからです。

配賦がもたらすのは、利益の増加ではなく、意思決定の精度です。

どの製品の値上げを優先するか、どの受注を断るか、どの工程に投資するか。

これらの判断を数字で裏づけるために配賦を行う、と位置づけると迷いが減ります。

逆にいえば、判断に使わない配賦は、手間をかけるだけ損だということでもあります。

どこまでを製造間接費として集めるか

配賦基準を考える前に、そもそも何を配賦の対象にするのかを決めなければなりません。

ここが曖昧なまま基準だけを精緻にしても、計算結果は安定しません。

製造間接費に入る費用の代表例

製造間接費は、工場で発生するが特定の製品にひも付けられない費用の集まりです。

間接材料費としては、潤滑油、切削油、研磨材、消耗工具器具備品などが該当します。

間接労務費としては、現場管理者や品質保証担当、材料の運搬担当など、特定の製品を作っていない人の賃金が該当します。

間接経費としては、工場の電力料、ガス代、水道代、建物と設備の減価償却費、修繕費、工場の火災保険料などが該当します。

直接工の手待ち時間や段取り時間の賃金も、実務上は間接労務費として扱うことが多い費目です。

まずはこれらを漏れなく1か所に集計することが出発点になります。

直接費にできるのに間接費に混ぜている費用

実務でまず点検すべきは、本来は直接費にできる費用が間接費に紛れ込んでいないかという点です。

配賦は、あくまで直接ひも付けられない費用に対する次善の策にすぎません。

直接ひも付けられる費用は、配賦せずにその製品へ賦課したほうが精度は上がります。

よくあるのは、特定製品専用の治具や金型の費用、特定製品にしか使わない副資材、特定の受注のためだけに行った外注検査などです。

これらを間接費に入れてしまうと、その製品が本来負担すべきコストが他の製品に薄く広がってしまいます。

配賦基準をいじる前に、まずこの仕分けを見直すほうが効果は大きいことが多いです。

製造原価に入れてはいけない費用

逆に、製造間接費に入れてはいけない費用もあります。

営業担当者の給与、本社の家賃、広告宣伝費、支払利息などは製造原価ではありません。

これらは販売費及び一般管理費、あるいは営業外費用として、製造原価とは別の層で扱います。

工場と事務所が同じ建物にある場合は、面積比などで按分し、工場に属する部分だけを製造間接費に入れます。

社長の役員報酬も、製造に従事している実態がある部分だけを労務費として扱うのが原則です。

この線引きを社内で文書にしておくと、担当者が代わっても数字の連続性が保たれます。

配賦基準は4つの型から選ぶ

集めた製造間接費を、何に比例させて割り振るか。

この「何に」が配賦基準です。

原価計算基準の三三では、操業度は原則として直接作業時間、機械運転時間、生産数量など、間接費の発生と関連のある適当な物量基準によって表示するものとされています。

つまり、間接費が増える原因と連動している尺度を選ぶ、というのが唯一の判断軸です。

時間基準と金額基準の違い

時間基準は、直接作業時間や機械運転時間に比例させる方法です。

製造間接費の中身が人の管理に関わる費用中心であれば直接作業時間、設備の減価償却費や電力費中心であれば機械運転時間が実態に近くなります。

自社の間接費の内訳を見て、金額の大きい費目がどちらに引っ張られているかを確認するのが選び方のコツです。

一方の金額基準は、直接労務費や直接材料費の金額に比例させる方法です。

作業時間の記録がまだ取れていない会社でも、賃金台帳と仕入データがあれば今日から始められる点が利点です。

ただし材料費に比例させると、材料単価が上がっただけで配賦額が増えてしまいます。

材料相場が動く時期には、製品の採算が実態と無関係に上下する点に注意が必要です。

物量基準が向く場面

物量基準は、生産数量や重量、面積といった物理的な量に比例させる方法です。

単一品種を大量に作る工場や、規格が揃った製品群であれば、これがもっとも簡単で説明もしやすくなります。

ただし多品種少量生産では、1個あたりの手間が製品ごとに大きく違うため、歪みが最大になります。

10秒で流れる部品と、段取りに40分かかる部品に、同じ金額の間接費が乗ってしまうからです。

自社が多品種少量に近いほど、物量基準からは離れたほうが実態に近づきます。

4類型の比較と選び方

ここまでの内容を、選択の判断材料として整理します。

基準の型代表的な配賦基準向いている会社注意点
時間基準(人)直接作業時間組立・仕上げなど人手が中心の工場設備依存の工程では実態とずれる
時間基準(機械)機械運転時間NC加工・プレスなど設備依存が高い工場稼働記録がないと採用できない
金額基準直接労務費・直接材料費作業時間の記録がまだ取れていない会社材料相場の変動で配賦額が動く
物量基準生産数量・重量・面積単一品種や規格品を量産する工場多品種少量では歪みが最大になる

迷ったときは、製造間接費のうち金額の大きい上位3費目を書き出してみてください。

その3費目が増える原因になっている尺度が、自社にとっての最適な配賦基準です。

配賦率を決める5ステップ

基準が決まったら、実際に配賦率を出します。

手順は5つに分解でき、エクセルだけで完結します。

ステップ1〜3:費用を集め、基準を決め、配賦率を出す

ステップ1は、1か月分の製造間接費を1か所に集めることです。

試算表の製造原価報告書から、直接材料費・直接労務費・直接経費を除いた残りが出発点になります。

ステップ2は、前章で選んだ配賦基準について、同じ1か月の総量を集計することです。

直接作業時間であれば全製品の作業時間合計、機械運転時間であれば全設備の稼働時間合計を出します。

ステップ3は、配賦率を計算することです。

配賦率は、製造間接費の総額を配賦基準の総量で割って求めます。

ステップ4〜5:製品に配賦し、結果を検証する

ステップ4は、製品ごとの配賦基準量に配賦率を掛けて、間接費配賦額を求めることです。

ステップ5は、配賦後の製品別原価を現場感覚と突き合わせて検証することです。

この検証を省くと、計算が合っているだけの表が出来上がります。

手間がかかっている実感のある製品の原価が安く出ていたら、基準が合っていない可能性が高いと考えてください。

ステップやることつまずきやすい点
1. 費用を集める1か月分の製造間接費を集計する販管費が混ざる/直接費が紛れ込む
2. 基準量を集計配賦基準の総量を出す稼働記録の抜け漏れ
3. 配賦率を計算間接費総額÷基準総量操業度の低い月に単価が跳ねる
4. 製品へ配賦製品別の基準量×配賦率製品別の基準量が取れていない
5. 結果を検証現場感覚と突き合わせる検証せず表を作って終わる

A社の計算例

金属部品加工業のA社を例に、実際の数字を追ってみます。

A社の1か月の製造間接費は600万円です。

製品Xは月4,000個、1個あたり直接作業0.5時間、機械運転0.2時間を要します。

製品Yは月2,000個、1個あたり直接作業0.5時間、機械運転1.1時間を要します。

直接作業時間の合計は、製品Xが2,000時間、製品Yが1,000時間で、合わせて3,000時間です。

直接作業時間を基準にすると、配賦率は600万円÷3,000時間=2,000円/時間となります。

製品X1個あたりの配賦額は0.5時間×2,000円=1,000円、製品Yも同じく1,000円です。

ここまでは、どの教科書にも載っている計算です。

問題は、この結果が本当に実態を表しているのか、という点にあります。

この計算をエクセルで組みたい方向けに、原価計算用のテンプレートを用意しています。

間接費の集計から配賦率の計算まで使える原価計算用エクセルは、原価計算エクセルのダウンロードページから入手いただけます。

配賦基準を変えると製品別の粗利は逆転する

ここが本記事でもっとも伝えたい部分です。

同じ会社、同じ月、同じ600万円の間接費でも、基準を変えるだけで製品の評価は正反対になります。

同じ会社を2つの基準で計算する

A社の機械運転時間を集計すると、製品Xが800時間、製品Yが2,200時間で、合計3,000時間です。

機械運転時間を基準にした場合の配賦率も、600万円÷3,000時間=2,000円/時間になります。

製品X1個あたりの配賦額は0.2時間×2,000円=400円、製品Yは1.1時間×2,000円=2,200円です。

ここに販売単価と直接費を並べると、次のようになります。

製品X・製品Yともに販売単価は4,000円、直接費は製品Xが2,600円、製品Yが1,400円とします。

1個あたりX(作業時間基準)Y(作業時間基準)X(機械時間基準)Y(機械時間基準)
販売単価4,000円4,000円4,000円4,000円
直接費2,600円1,400円2,600円1,400円
間接費配賦額1,000円1,000円400円2,200円
製造原価3,600円2,400円3,000円3,600円
粗利益400円1,600円1,000円400円
粗利率10.0%40.0%25.0%10.0%

作業時間基準では、製品Yが粗利率40.0%の優良製品、製品Xが10.0%の低採算製品に見えます。

機械時間基準では、製品Xが25.0%に改善し、製品Yは10.0%まで落ちます。

評価が完全に入れ替わりました。

なぜ逆転が起きるのか

原因は、製品Yの作り方にあります。

製品Yは、人が張り付いている時間は製品Xと同じ0.5時間ですが、機械を占有する時間は5倍以上の1.1時間です。

つまり製品Yは、人ではなく設備を大量に消費する製品です。

A社の製造間接費600万円の中身が、設備の減価償却費と工場の電力料で大半を占めているとしたらどうでしょうか。

その費用を発生させている主犯は、明らかに製品Yのほうです。

それにもかかわらず作業時間基準を使うと、製品Xと製品Yに同額の1,000円が乗ります。

これが、製品Xが製品Yの設備コストを肩代わりしている状態、すなわち内部相互補助です。

どちらの数字を信じるべきか

判断基準はひとつです。

その間接費を発生させている原因に近いほうを選びます。

A社の間接費が設備関連中心であれば、機械運転時間基準の数字を信じるべきです。

もし間接費の大半が現場管理者の人件費や品質管理の費用であれば、作業時間基準のほうが実態に近くなります。

費目ごとに性質が分かれている場合は、設備関連費は機械運転時間、人の管理に関わる費用は直接作業時間、というように配賦基準を分けて設定する方法もあります。

これが部門別配賦や活動基準原価計算へ進む入口になります。

ただし中小製造業では、まず全社一括で1つの基準を正しく選ぶところから始めれば十分です。

受注案件ごとに採算を追いかける体制づくりに関心がある方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

多品種少量生産で製品別の採算を見える化する手順は、ジョブコスティング(個別原価計算)とは?多品種少量生産で「隠れ赤字」をなくす導入5ステップで解説しています。

実際配賦と予定配賦のどちらを使うか

配賦基準が決まったら、次は配賦率をいつの数字で作るかという論点が出てきます。

実際に発生した金額で計算するのが実際配賦、あらかじめ決めた率で計算するのが予定配賦です。

実際配賦の弱点

実際配賦は、その月に実際に発生した製造間接費を、その月の実際の基準量で割って配賦率を出す方法です。

一見もっとも正確に思えますが、実務では2つの弱点があります。

ひとつは、月末に試算表が締まるまで配賦率が確定せず、原価がわかるのが翌月中旬以降になることです。

見積回答や値決めには間に合いません。

もうひとつは、同じ製品なのに月によって原価が変動してしまうことです。

受注が少なく操業度が落ちた月は、分母である基準量が小さくなるため配賦率が跳ね上がります。

暇な月ほど製品の原価が高く計算され、値上げが必要に見えるという逆転が起こります。

予定配賦率の作り方

この弱点を解消するのが予定配賦です。

原価計算基準の三三では、間接費は原則として予定配賦率をもって各指図書に配賦するものとされています。

予定配賦率は、1年間または1会計期間の製造間接費予定額を、同じ期間の予定操業度で割って求めます。

A社であれば、年間の製造間接費予定額7,200万円を、年間の予定機械運転時間36,000時間で割って2,000円/時間とするイメージです。

ここで重要なのが予定操業度の置き方です。

原価計算基準は、予定操業度を技術的に達成可能な最大操業度ではなく、その期間の生産および販売事情を考慮して定めた操業度とするよう求めています。

フル稼働を前提に置くと配賦率が低く出すぎ、実際には回収できない見積りになってしまうためです。

配賦差異が出たときの扱い

予定配賦を使うと、予定額と実際額の差である製造間接費配賦差異が必ず発生します。

差異は、間接費そのものが予算とずれた予算差異と、操業度が予定とずれた操業度差異に分解できます。

原価計算基準の四七では、原価差異は材料受入価格差異を除き、原則として当年度の売上原価に賦課するものとされています。

実務上は、差異が出たこと自体より、どちらの差異が大きいかを見るほうが役に立ちます。

予算差異が大きければ経費の使い方、操業度差異が大きければ受注量や稼働計画に原因があるという読み方ができるからです。

比較項目実際配賦予定配賦
配賦率の確定月次決算の締め後期首にあらかじめ決定
見積りへの利用間に合わないその場で使える
月ごとの原価操業度で変動する安定する
差異の発生発生しない配賦差異が発生する
向いている会社年に数回しか原価を見ない見積り・値決めに原価を使う

時間あたりのコストという考え方をより深く整理したい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

人件費と設備費から時間単価を導く手順は、アワーレートとは?製造業の人件費・設備費から見積り単価を導く計算方法で解説しています。

配賦基準の設計と運用を自社だけで進めるのが難しい場合は、外部の専門家に伴走してもらう選択肢もあります。

配賦基準の設計から製品別採算の運用定着までを支援する原価管理体制の構築支援もご用意しています。

まとめ:明日から決めるべき3つのこと

最後に、この記事の内容を自社の作業に落とし込みます。

完璧な配賦を目指すより、判断に使える配賦を早く作るほうが効果的です。

今日決める3つのこと

1つ目は、製造間接費に何を含めるかの線引きです。

直接費にできる費用を間接費に混ぜていないか、販管費が紛れ込んでいないかを点検してください。

2つ目は、配賦基準をどれにするかです。

間接費のうち金額の大きい上位3費目を書き出し、その費用を発生させている尺度を選びます。

3つ目は、実際配賦と予定配賦のどちらを使うかです。

見積りや値決めに原価を使うのであれば、予定配賦を選ぶ以外の選択肢はありません。

この3つが決まれば、翌月から製品別の採算が動き出します。

運用を続けるための最低ライン

配賦は、一度決めて終わりの作業ではありません。

とはいえ、毎月見直していては現場が疲弊します。

実務的な最低ラインは、年に1回、期首に配賦率を見直すことです。

設備を新しく導入した年、人員構成が大きく変わった年は、その都度見直します。

また、配賦基準と計算式を1枚の紙にまとめて社内に残してください。

担当者が代わった瞬間に計算根拠が失われる会社を、これまで何度も見てきました。

数字の連続性が切れると、前年との比較ができなくなり、改善したかどうかすら判断できなくなります。

配賦の精度より、使う頻度を上げる

最後にお伝えしたいのは、精度よりも使用頻度のほうが重要だということです。

配賦基準を3か月かけて精緻に設計しても、その数字を誰も見なければ利益は1円も増えません。

粗くても構わないので、まず来月の見積りに配賦後の原価を使ってみてください。

実際に使うと、どこがおかしいかが必ず見えてきます。

そのずれを1つずつ直していくほうが、机上で完璧を目指すより早く実用レベルに到達します。

製造間接費の配賦は、会計のための作業ではなく、値決めのための道具です。

その位置づけを社内で共有できたとき、原価計算は初めて経営の武器になります。

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筆者紹介

吉岡翼(中小企業診断士) 
付加価値創造ラボ主宰

中央大学法学部卒。独立系コンサルティングファームにて東証プライム上場企業から中小製造業の経営支援に従事。
独立後は、「人と企業の理想を、現実に変える力に」を理念に価格転嫁や生産性向上の支援に注力している。