「自社の利益率は普通なのか」多くの経営者がこの不安を感じていると思います。
「うちの利益率は、他の会社と比べて高いのか低いのか分からない」——決算書を眺めるたびに、そう感じていませんか。日々の受注対応や現場の段取りに追われていると、自社の利益率が業界の中でどのくらいの水準にあるのか、じっくり考える時間はなかなか取れないものです。
「原価は上がっているのに、利益率は去年とあまり変わらない気がする」「銀行から利益率について聞かれても、良いのか悪いのか自信を持って答えられない」。こうした声は、中小製造業の経営者・経営幹部の方から非常によく聞かれます。
実は、経済産業省が実施している調査からは、中小製造業の利益率の実態がかなり具体的に見えてきます。本記事では、公的データをもとにした利益率の目安と、混同されやすい粗利率・付加価値額との違い、そして利益率を着実に改善していくための実践的なステップを解説します。
製造業の利益率とは?押さえておきたい3つの指標
ひとことで「利益率」と言っても、何を分子・分母に置くかによって意味合いが変わります。まずは製造業の現場でよく使われる3つの指標を整理しておきましょう。
売上高営業利益率・売上高経常利益率の計算式
もっとも基本的な収益性指標が、売上高営業利益率と売上高経常利益率です。
| 指標 | 計算式 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 売上高営業利益率 | 営業利益 ÷ 売上高 × 100 | 本業(製造・販売活動)でどれだけ稼げているか |
| 売上高経常利益率 | 経常利益 ÷ 売上高 × 100 | 本業に加え、金融収支まで含めた通常の収益力 |
製造業の利益構造をシンプルに表すと、次のようになります。
利益 = 見積単価(売上)- 製造原価 - 販管費
この製造原価は、材料費・外注加工費・直接製造原価(人件費)・直接製造原価(機械)・間接製造原価に分解できます。特に直接製造原価は「時間チャージ(アワーレート)× 作業時間」で決まるため、稼働率や作業時間の管理が利益率に直結します。
売上高総利益率(粗利率)との違い
「粗利率」と「利益率」は混同されがちですが、粗利率(売上高総利益率)は売上から売上原価を差し引いた「売上総利益」を基準にした指標で、販管費を差し引く前の数字です。一方で経常利益率は、そこからさらに人件費や家賃などの販管費、金融収支まで反映した「最終的な儲け」に近い指標になります。
製造業では、粗利率が高く見えても、固定費(設備の減価償却費や間接部門の人件費など)の負担が重く、経常利益率で見ると急に低くなるケースが少なくありません。この違いをより正確に理解するには、「限界利益」という考え方も欠かせません。売上から材料費・外注加工費などの変動費を差し引いた限界利益が固定費を上回っていれば黒字、下回っていれば赤字という構造になります。粗利率と限界利益の違いについては、以下の記事で詳しく計算方法を解説しています。
▼粗利率と限界利益の違いをより詳しく知りたい方はこちらもおすすめです。
【製造業】限界利益と売上総利益(粗利益)の違いとは?経営判断を狂わせない正しい計算方法と活用術
付加価値額・付加価値比率との関係
もう一つ重要な指標が「付加価値額」です。付加価値額とは、企業が自社の活動によって新たに生み出した価値のことで、経済産業省の中小企業実態基本調査では次のように定義されています。
付加価値額 =(売上原価のうち労務費・動産不動産賃借料・減価償却費)+(販管費のうち人件費・賃借料・減価償却費・租税公課)+(営業外費用のうち支払利息・割引料)+ 経常利益 + 能力開発費
利益率が「稼いだ金額のうち、どれだけが利益として残ったか」を示すのに対し、付加価値額は「会社が社会に対してどれだけの価値を生み出したか」を示す指標です。人件費への還元余地や賃上げ原資を考えるうえでは、利益率だけでなく付加価値額・付加価値比率も合わせて見ることが重要になります。付加価値生産性の考え方は、以下の記事でも詳しく解説しています。
▼付加価値の計算式や現場での活用法はこちら
付加価値生産性とは?意味・計算式から中小製造業が現場で利益を増加させる手順まで徹底解説
製造業の利益率の目安・平均データ(経済産業省調査より)
「では実際、製造業の利益率はどのくらいが目安なのか」という点について、経済産業省「中小企業実態基本調査」(令和5年調査、令和4年度決算実績)の公表データをもとに見ていきましょう。
中小企業全体の売上高経常利益率は4.29%
同調査によると、中小企業(全産業)の1企業当たりの経営指標は次の通りです。
| 経営指標 | 令和4年度(全産業加重平均) |
|---|---|
| 売上高経常利益率 | 4.29% |
| 自己資本当期純利益率(ROE) | 11.50% |
| 総資本回転率 | 1.00回 |
| 自己資本比率 | 41.71% |
| 付加価値比率(付加価値額 ÷ 売上高) | 26.09% |
全産業平均の売上高経常利益率は4.29%です。営業利益率ベースで語られることの多い「0〜5%が一般的な水準、5%を超えると経営状態は良好」という目安感とも、概ね近い水準といえます。
製造業1社あたりの経常利益・売上高から見る実態
同調査では業種別のデータも公表されています。製造業の中小企業(法人・個人合算)1社あたりの数値は次の通りです。
| 項目 | 製造業(令和4年度) |
|---|---|
| 1社あたり売上高 | 約4億1,090万円 |
| 1社あたり経常利益 | 約2,160万円 |
単純に経常利益を売上高で割ると、製造業の平均的な売上高経常利益率はおよそ5%前後という計算になります(全産業平均の4.29%をやや上回る水準)。ただし、これはあくまで全国・全規模の製造業を合算した平均値です。同調査でも、一般機械器具製造業のように利益率が高い業種と、鉄鋼業のように利益率が低い業種とでは数ポイントの差が生じることが指摘されており、業種・規模・設備投資の状況によって「目安」は変動する点には注意が必要です。
製造業の付加価値額から見る生産性の実態
付加価値額についても、製造業(法人企業)の1社あたりの金額は令和4年度で約1億6,960万円と公表されています。前年度比でも増加傾向にあり、従業者1人あたりの付加価値額(労働生産性)を伸ばしていくことが、賃上げの原資を確保するうえでも重要なテーマになっています。
自社の数字をこれらの目安と比較する際は、「経常利益率だけ」ではなく、粗利率・限界利益・付加価値額もあわせて確認することで、どこに改善余地があるのかが見えやすくなります。
利益率が伸び悩む製造業特有の原因
公的データ上の平均に届いていない、あるいは平均は上回っていても実感として利益が残らない——その背景には、製造業特有の構造的な要因が潜んでいることが多くあります。
設備投資による固定費負担の重さ
製造業は設備投資への依存度が高く、減価償却費や設備維持費といった固定費の比重が大きくなりがちです。売上が伸びている局面では吸収できていた固定費も、受注が落ち込むと一気に利益を圧迫し、赤字に転落しやすい構造を持っています。だからこそ、売上から変動費を引いた限界利益で固定費をどれだけ賄えているかを常に把握しておくことが欠かせません。
稼働率・標準時間の管理不足
製造業における人・設備のコストは、基本的に「時間チャージ(アワーレート)× 稼働時間」で決まります。アワーレートは人件費や設備費(減価償却・光熱費など)から算出され、年間を通じてほぼ固定です。つまり利益率を左右する最大の変数は「稼働時間」、なかでも稼働率(稼働時間 ÷ 就業時間)と、1つの作業にかかる時間の長さです。
標準時間(作業時間+余裕時間)が定められていない現場では、実際の作業時間との比較ができず、どこに改善余地があるのかを特定できません。特に多品種少量生産の現場では、「どの製品をいつまでに何個作るか」の指示が曖昧だと作業者の手が止まりやすく、気づかないうちに稼働率が下がっているケースも珍しくありません。
個別原価が「勘と経験」に依存している
多くの製造現場では、個別製品の原価をベテランの勘と経験で見積もっているのが実情です。重量など単一の基準だけで単価を決める「コストテーブル」的な発想は簡便ですが、軽量化製品のように加工に手間がかかるのに重量ベースでは安く見積もられてしまうといった例外も生じます。結果として、実際には赤字に近い製品を「利益が出ている」と誤認したまま受注を続けてしまうリスクがあります。原価管理の見える化についての具体的な手順は、以下の記事で解説しています。
▼「見えないコスト」を洗い出す棚卸し手順はこちら
中小製造業の資金繰りを改善する原価管理の本質|見えないコストの棚卸し手順
製造業の利益率を改善する実践ステップ
利益率の目安と現状のギャップが見えてきたら、次は改善のステップです。ここでは、現場で取り組みやすい3つのステップを紹介します。
ステップ1:製品別・顧客別に限界利益を見える化する
まずはPL(損益計算書)を変動費・固定費に組み替えた「変動損益計算書」を作り、製品別・顧客別の限界利益を可視化します。人件費などの固定費が内包された粗利益だけでは、製品ごとの本当の収益貢献度は分かりません。限界利益がマイナス、あるいは今後の原材料高で低水準に陥りそうな製品・顧客から優先的に見直しの対象とすることで、値上げ交渉や取引条件の見直しの優先順位が明確になります。
ステップ2:稼働率を上げ、標準時間を設定する
標準時間(作業時間+余裕時間)を設定し、実際の作業時間と突き合わせることで、改善すべき工程が具体的に見えてきます。目標時間は標準時間よりもやや短めに設定し、進捗確認と継続的な改善活動をセットで回していくことがポイントです。稼働率を高める取り組みについては、以下の記事も参考にしてください。
▼稼働率と付加価値の関係をさらに詳しく
付加価値生産性とは?意味・計算式から中小製造業が現場で利益を増加させる手順まで徹底解説
ステップ3:価格転嫁の優先順位をつけて交渉に臨む
限界利益の見える化ができたら、「自社の優位性の有無」×「限界利益の高低」の2軸で製品・取引先をマッピングし、値上げ交渉の優先順位をつけましょう。優位性があり限界利益が低い取引ほど交渉の成功可能性が高く、逆に優位性がなく限界利益も低い取引は難易度が高いため、関係性強化など別のアプローチを検討する、といった判断がしやすくなります。値上げが会社全体の文化として根付くよう、利益を「見える化」し「評価」し「知識を共有する」というサイクルを回していくことも欠かせません。利益率が低下しているサインの見極め方は、以下の記事で詳しく解説しています。
▼利益率低下のサインと価格転嫁のタイミングはこちら
【製造業】利益率低下のサインとは?原価率から読み解く「価格転嫁」の最適なタイミング
まとめ|利益率改善は「見える化」から始まる
製造業の利益率は、経済産業省の調査データで見ると売上高経常利益率でおよそ5%前後が一つの目安です。ただし、この平均値だけを見て一喜一憂するのではなく、粗利率・限界利益・付加価値額といった複数の指標を組み合わせて自社の実態を把握することが、改善への近道になります。
そのための土台となるのが、原価と利益構造の「見える化」です。個別原価の計算方法から体系的に押さえたい方は、以下のピラー記事もあわせてご覧ください。
▼原価計算の基本を体系的に学びたい方はこちら
原価計算とは?中小製造業が最初に押さえるべき目的・種類・進め方
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筆者紹介

吉岡翼(中小企業診断士)
付加価値創造ラボ主宰
中央大学法学部卒。独立系コンサルティングファームにて東証プライム上場企業から中小製造業の経営支援に従事。
独立後は、「人と企業の理想を、現実に変える力に」を理念に価格転嫁や生産性向上の支援に注力している。

